本研究では、生理活性物質を含む多官能基性化合物群の短段階分子変換を可能にする有機触媒システムの構築を目的として研究を行っている。その実現に向け、基質認識型求核触媒から生じる中間体塩の対アニオンを系中で交換させることで、望む官能基変換に応じて中間体の反応活性を制御する。これにより、これまで達成されていない位置選択的分子変換を実現する。今年度は前年度に確立したアニオン交換による触媒サイクル活性化法に基づき、従来法では困難であったグルコース誘導体の位置選択的次亜リン酸化を達成した。この際、次亜リン酸クロリドを用いるグルコース誘導体の次亜リン酸化は、DMAP及び基質認識型触媒いずれの場合も6位第一級水酸基選択的するのに対し、基質認識型触媒を用いアニオン源としてフェノール誘導体を添加すると位置選択性が劇的に変化し、3位第二級水酸基上で優先的に反応が進行した。また本研究の基盤技術である触媒制御でのアシル化の展開として、ジスルホンアミドの選択的モノアシル化の検討を行った。DMAP触媒ではジアシル化とモノアシル化の速度の制御ができずジアシル化体、モノアシル化体及び原料の混合物を与えるのに対し、基質認識型触媒を用いると水素結合駆動による基質の加速的アシル化によってほぼ完全な選択性でモノアシル化体を与えた。また、ジスルホンアミドの鎖長によって加速度合いが異なるという興味深い知見を得た。さらにジアミンの触媒的不斉非対称化を行い、90%を超える光学純度でモノアミド体が得られることを見出した。
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