研究課題/領域番号 |
15K18830
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
中山 淳 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 助教 (60743408)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マクロライド / 全合成 / 骨髄腫 |
研究実績の概要 |
超高齢化社会を迎えた日本において、加齢により罹患リスクが高まる多発性骨髄腫治療薬の 開発は急務である 。本研究では、多発性骨髄腫に抗腫瘍活性を示す天然マクロライド LL-Z1640-2を基盤として、次のような 研究を展開する。1, 独自の収束的全合成法を駆使して 1 及びそ の関連マクロライド誘導体の網羅的合成を達成する。2, 本合成経路から創出される各種マク ロライド及び代謝関連化合物の蛍光標識体を用いて真の生体内 活性化合物を探索する。3, 光 クロスリンク法を活用し、標的タンパク質の同定ならびに活性代謝化合物の作用 機序を解明 する。これにより新規多発性骨髄腫治療剤開発を目指した基盤研究を確立することを最終目的とする。平成27年度においては本研究課題において、初期目標であるLL-Z1640-2の不斉全合成を達成し、これまでに合成されていなかった天然物誘導体の合成にも成功した。また、この全合成中間体の生物活性評価を精査したところ、LL-Z1640-2と同様に多発性骨髄腫細胞に強力な活性を示す化合物を見出した。本化合物は非常に短段階で合成可能であり、大量スケールでの供給も可能なことから、新たな有望医薬品シード分子として期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、当初の予定通り市販の化合物を出発原料に、三つのフラグメントの合成を検討を行った。その結果、短段階でのフラグメント合成には成功したものの、その後のパラジウム触媒を用いたカップリング反応の効率に問題があり、違う合成経路にてLL-Z1640-2の不斉全合成を目指した。その結果、低温分子内ring closing metathesisを用いることでLL-Z1640-2の炭素骨格を得ることに成功した。続いて、生物活性に重要とされるcis-enone部位の構築も選択的に行うことが出来た。未だ立体化学について改善の余地を残すものの、当初予定していたLL-Z1640-2の類縁体を網羅的合成法を確立した。化合物の分析データに加え、合成したLL-Z1640-2の生物活性評価を行った結果、これまでの結果と良い一致を示したことからも正確に目的物を得ることができたと考えている。現在、類縁体のin vitroでの多発性骨髄腫細胞障害活性ならびにキナーゼ阻害活性を測定中である。 また、全合成の過程において、その中間体及び誘導体の生物活性評価も行ったところ、LL-Z1640-2と同等の活性を有する構造簡略化合物の獲得にも成功した。 以上の理由から、本研究課題がおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、当初の研究計画に従い、LL-Z1640-2及び強力な生物活性を有する誘導体に光標識残基及び蛍光分子を導入し、多発性骨髄腫細胞中での局在および標的タンパク質の同定に迫る。蛍光残基等の導入部位に関しては、詳細な構造活性相関研究を行う必要があることから、化合物供給における合成経路の最適化も同時に行う。また、LL-Z1640-2全合成中間体が強力な生物活性を有していることが判明したことから、本化合物の作用機序についての検討を行う。現在、クリックケミストリーに必要なアルキン体誘導体の合成を完了しており、本化合物の生物活性を詳細に調査した後、標的タンパク質を釣り上げることを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた20th Natural Products Society in Philippines Annual Conference(マニラ・フィリピン)への参加・渡航滞在費用を加算していたが、所属研究機関の若手研究者支援予算を利用することができたことからこのような差額が生じた。その他に関しては概ね予定通りの使用であったと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
計画は当初の予定通り順調に進んでいる。平成28年度では合成した天然マクロライドLL-Z1640-2をはじめ、その誘導体の生物活性評価をさらに行っていくことから、実験動物の購入等に当該助成金を当てたいと考えている。
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