研究課題/領域番号 |
15K18833
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
山口 深雪 静岡県立大学, 薬学部, 助教 (70548932)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 触媒 / 配位子 / 位置選択性 / クロスカップリング |
研究実績の概要 |
本研究では、配位子による位置選択性制御を活用した新規反応の開発およびそれらの反応を活用した多置換化合物類の合成を行った。 筆者らのグループではこれまでに基質捕捉能を有するヒドロキシ基含有ターフェニルホスフィン配位子Dihydroxyterphenylphosphine(DHTP)を開発し、DHTPとパラジウムからなる触媒を用いることにより、一般に反応性が低いハロゲン化フェノールやハロゲン化アニリンのオルト位でクロスカップリングが選択的に進行することを報告している。これらの反応では配位子により位置選択性を制御しており、既存の配位子を用いた場合とは異なる位置選択性や高い反応性を示す。 始めに、同触媒を用いる新規反応の探索を行った。様々な反応について検討した結果、ハロアレーンを用いるインドールのアリール化において、同触媒が既存の配位子を用いた場合と異なる位置選択性を示すことを見出した。さらに、反応性が低いとされるクロロアレーンを基質とした場合にも反応が良好に進行することを見出した。 次に、同触媒を用いて多置換化合物類の合成を行った。ジクロロフェノールあるいはジクロロアニリン誘導体と末端アルキンのオルト位選択的薗頭カップリングを活用した二置換ベンゾフランおよびインドール類のワンポット合成について基質一般性の拡大を検討した。その結果、テトラブチルアンモニウムクロリド(TBAC)を添加すると、クロロベンゾフランあるいはクロロインドールとボロン酸の鈴木―宮浦カップリングが促進、従来の反応条件では同反応が進行しづらかったボロン酸を用いた場合にも、目的物を中程度から高い収率で得ることができた。 また、様々な置換基を有する2-クロロアニリン誘導体を用いて置換インドール類の合成を行い、目的のインドール類を中程度から高い収率で得た。 さらに、DHTPの骨格を基にした新規ホスフィン配位子の合成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
配位子により位置選択性を制御する新規反応の探索については、DHTPを配位子として用いるパラジウム触媒反応のスクリーニングを行った。その結果、DHTPを用いると既存の配位子を用いた場合とは異なる位置選択性を示す新規反応として、クロロアレーンを用いたインドールのC-3位選択的アリール化を見出すことができた。そこで、現在、本反応における反応条件のさらなる最適化および基質一般性の検討を行っている。しかしながら、本反応における位置選択性の発現機構に関してはいまだ未解明な部分が多く、今後さらに検討を進める必要がある。また、インドール以外のヘテロ芳香族化合物に対するアリール化などへの展開についても今後検討を進める必要があると考えている。 また、同触媒を用いた様々な多置換化合物の合成については、これまでに開発したベンゾフランおよびインドールのワンポット合成法を改良し、応用することで、従来の合成法では合成が難しかった種々の二置換ベンゾフラン類、二置換インドール類を合成することができた。これにより本合成法の基質一般性を拡大させることができた。 一方、DHTPの構造を基にした新規基質捕捉・活性型配位子の開発については、ターフェニル骨格中央のベンゼン環をナフタレンに置き換えた新規配位子を3種類合成することができた。現在、DHTPやこれらの新規配位子の合成で得た知見を元に、これらとは異なる骨格を持つ配位子の合成を開始している。また、合成した新規配位子とパラジウムからなる触媒を用いたモデル反応を行い、それらの反応において高い反応性や位置選択性を示すかについて検討を開始した。しかしながら、現時点では従来の配位子と異なる位置選択性や反応性を示す配位子および新規反応は見つかっていない。今後、様々な種類の反応について更に検討していく必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は以下の項目について検討を行っていく。 (1)DHTPおよび種々の金属から成る触媒を用い、配位子により位置選択性を制御する新規反応の探索を引き続き行う。まず、DHTPおよびパラジウムから成る触媒が、既存の配位子を用いた場合と異なる位置選択性を示す反応を探索する。さらに、パラジウム以外の金属、例えばニッケルや金等の種々の金属を用いた反応についても検討する。その後、見出された新規反応について反応条件を最適化し、基質一般性の検討を行う。同時に、NMRやMS等の各種機器分析を活用し、これらの反応の触媒種や反応中間体を検出、同定する。そして、得られた情報を基にそれらの反応の位置選択性発現機構を解明する。 (2)新規基質捕捉・活性型ホスフィン配位子の開発を引き続き行う。これまでに合成した新規ホスフィン配位子については、それらを用いてモデル反応を行い、高い位置選択性あるいは反応性を示すかを検討するスクリーニングを行う。また、DHTPおよびその類縁体の開発でこれまでに得られた知見を基に、さらに骨格を改変あるいは置換基の導入を行い、様々なホスフィン配位子を設計、合成する。一例として、ターフェニル骨格中央のベンゼン環をチオフェンやフランなどのヘテロ芳香環に変更した配位子類の合成を計画している。そして、様々なモデル反応を用いてそれらの新規配位子のスクリーニングを行い、高い位置選択性やあるいは反応性を示す配位子を探索する。 (3) 上記で開発した新規触媒や新規反応および既存の触媒を用いる反応とを使い分けることで、同一の原料化合物から位置選択的反応により多様な置換パターンを有する化合物群の合成を行う。さらに、残存する官能基を連続的にワンポットで変換する合成法についても検討を行っていく。これにより、多置換化合物群のより効率的かつ網羅的な合成法の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
27年度に行った研究では、すでに研究室にあった試薬類・溶媒やガラス器具類などを多く活用して実験を行うことができた。そのため、試薬やガラス器具などを新たに購入した金額が27年度に必要であると当初予想した金額よりも少なくなった。 また、得られた研究成果を論文として発表するための英文校正の費用の支出がなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
実験を行うにあたり必要となるガラス器具類、新規配位子を合成するために必要な試薬類、様々な多置換化合物を合成するための原料となる試薬類、種々の溶媒、精製に必要なシリカゲル、不活性ガス雰囲気下での反応に必要なアルゴンガスなどを購入する。また、NMRやMSなどの各種機器分析に必要な溶媒、器具などの消耗品を購入する。 また、得られた研究成果を論文として発表するための英文校正の費用に充てる。さらに、様々な学会に参加して研究成果を発表するための学会参加費や旅費として使用したいと考えている。
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