研究課題
ヘリセンは、ベンゼン環や他の芳香環がオルト縮環して非平面のラセン構造を形成する化合物であり、分子全体としてラセン不斉を形成する。近年、適切な位置に官能基をもつヘリセンは、不斉触媒として機能することが明らかになっている。しかしながら、ラセン不斉を活用するヘリセン型不斉触媒を開発する上で重要なヘリセン1位への官能基導入・変換法は未だ確立されていない。そこで、本研究課題では既にグラムスケール合成法を確立した1位にヒドロキシ基をもつ1-[6]ヘリセノールの官能基変換を機軸とするヘリセン型不斉触媒創製を目指している。前年度に検討したMiyazaki-Newman-Kwart(MNK)転位反応による[6]ヘリセン1位への硫黄官能基の導入について、引き続き検討を行った。その結果、91%単離収率で目的の1位硫黄官能基化[6]ヘリセンをグラムスケールで得ることに成功した。これは1位に硫黄官能基をもつヘリセンの初めての合成例である。また、光学的に純粋な1-[6]ヘリセノールから誘導した反応基質を用いてMNK転位反応を行うと、反応中にラセミ化が起こり、ラセミ体の生成物が得られることがわかった。これを受けて、1位硫黄官能基化[6]ヘリセンの光学分割法を新たに検討した。MNK転位反応生成物から1-[6]ヘリセンチオールへと誘導し、キラル分割剤を用いる光学分割法を検討したところ、L-イソロイシン由来の分割剤を用いると生じるジアステレオマーの分離が可能であることを見出した。各ジアステレオマーを分離後、キラル補助基の除去、官能基化を行うことにより、2種の1位硫黄官能基化[6]ヘリセンの両エナンチオマーを光学的に純粋に得た。また、光学分割過程の中間体のX線結晶構造解析から1位硫黄官能基化[6]ヘリセンの絶対立体配置を決定した。さらに、確立した合成手法を基に新規な[7]チアヘリセンを得ることにも成功した。
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European Journal of Organic Chemistry
巻: ー ページ: 4948-4952
10.1002/ejoc.201600677
Journal of the American Chemical Society
巻: 138 ページ: 11481-11484
10.1021/jacs.6b07424