研究課題
1.バイアスリガンドが結合したβ2アドレナリン受容体(β2AR)の構造解析β2ARのメチオニンメチル基を選択的に13C標識し、その周囲を2H標識した上で、活性の異なる様々なリガンドが結合した状態でNMRスペクトルを測定した。Gタンパク質シグナルとアレスチンシグナルをともに活性化する通常のリガンドが結合した状態では、β2ARの細胞内側に位置するM215の化学シフトは、シグナル伝達活性に応じて直線的に変化した。一方で、アレスチンシグナルを選択的に流すバイアスリガンドが結合した状態では、M215の化学シフトは通常のリガンドとは異なる方向に変化した。このことは、β2ARの細胞内側が、複数の活性化構造を取り得ること、さらに、通常のリガンド結合状態とバイアスリガンド結合状態では、この複数の活性化構造の割合が異なることを示している。2.バイアスリガンドが結合したμオピオイド受容体(μOR)の構造解析β2ARと同様の方法を用いてμORのNMRスペクトルを測定した。通常のリガンドが結合した状態では、μORのM245に由来する2個のNMRシグナルが観測され、その量比がシグナル伝達活性に応じて変化した。一方で、Gタンパク質シグナルを選択的に流すバイアスリガンドが結合した状態では、同様に2個のシグナルが観測されたものの、その化学シフトが通常のリガンドと異なっていた。M245の化学シフトと、Gタンパク質・アレスチンシグナルの選択性の程度がよく相関していたことから、μORもβ2ARと同様に、複数の活性化構造を取り得ること、通常のリガンド結合状態とバイアスリガンド結合状態では、この複数の活性化構造の割合が異なることが明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画では、1年目でβ2ARの解析をおこなうとともに、μORの解析に着手し、2年目でμORの解析を完了して、両受容体の結果を合わせて考察する予定であったが、実際には、2年目に行う予定であったμORの解析も1年目に前倒しでおこなうことができた。このことから、当初の計画以上に研究が進展していると判断した。
上述のように、当初の研究計画については、1年目に前倒しで完了したが、本研究をさらに発展させ、より詳細にシグナルバイアスが生じる機構を明らかにするために、2年目に実施する内容として、以下の項目を新たに設定した。1.δオピオイド受容体(δOR)のNMR解析δORはμORと膜貫通領域の相同性が高い一方で、リガンド非存在下のシグナル伝達活性(基礎活性)やGタンパク質の選択性は両者で異なっている。そこで、β2AR、μORに加えてδORでも同様の解析をおこない、GPCRに一般的なシグナル伝達機構を明らかにする。2.アラニンをプローブとした空間分解能の向上これまでは、メチオニンメチル基をプローブとして構造解析を進めてきたが、メチオニン残基はGPCRの膜貫通領域に10残基程度と少ないことから、構造変化をとらえる上で空間分解能が低いことが問題となっている。そこで、メチオニンに加えてアラニンメチル基もプローブとすることで、高い空間分解能で構造変化をとらえることを目指す。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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http://ishimada.f.u-tokyo.ac.jp/public_html/index_j.html