前年度までの研究で、G2/M arrestを引き起こす抗がん剤であるドキソルビシンを処置した細胞において、リポソームとプラスミドDNA の複合体(liposomal pDNA) の遺伝子発現活性が向上したことを示した。一方、遺伝子発現活性の上昇が観察される濃度のドキソルビシンを処置した際、G2/M arrestは細胞集団の一部のみで確認されたため、ドキソルビシン処置による遺伝子発現活性の上昇の主要因はG2/M arrest以外の作用によるものである可能性が示唆された。 本年度は、遺伝子発現活性の向上に寄与する要因を探索するため、ドキソルビシン処置時に細胞集団全体で起きている事象に注目して画像解析を行った。画像解析の結果、ドキソルビシン処置時に核の断面積が2倍以上になっていることが明らかとなった。そこで、ドキソルビシン処置による核の肥大に伴う核の物質透過性の上昇により、liposomal pDNAの核移行量が増加し、遺伝子発現活性が高まったという仮説を立てた。本仮説の検証のため、ドキソルビシン処置群と無処置群における、liposomal pDNAの核移行量を比較した。その結果、ドキソルビシン処置細胞において、liposomal pDNAの核移行が促進されていることが示唆された。次に、本現象が核の肥大と関連しているかについて確かめるため、ドキソルビシン処置群・無処置群それぞれの核の断面積とliposomal pDNAの核移行量の相関を評価した。その結果、核内へ移行したliposomal pDNA量と核のサイズの間に相関がみられた。本結果より、ドキソルビシン処置による核の肥大がliposomal pDNAの核移行を促進させ、これが遺伝子発現活性の上昇に寄与している可能性が示唆された。
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