研究実績の概要 |
ドラッグデリバリーシステムは、長時間にわたって薬剤を治療有効濃度に保つことや、副作用を低減させる技術であり、体内での薬の徐放、病態組織への局所的輸送を制御するシステムである。本研究においては、局所加温による温度変化、細胞内小胞の特徴的pHに注目した2段階温度、pH応答性ブロックポリマーを設計し、がん細胞選択的な取り込み、および細胞取り込み後の薬物放出が可能なドラッグキャリアの創製を目的とした。まず、疎水性ブロックとして細胞内小胞の酸性環境に応答して崩壊するpoly[2-(diisopropylamino)ethyl methacrylate]、温度応答性水溶性ブロックとしてN-isopropylacrylamide、N,N-dimethyl acrylamideの共重合ポリマーを持つ両親媒性ブロックコポリマーを合成した。このポリマーを用いて、抗がん剤であるドキソルビシンを内包させミセル化した。培養する温度(37°Cと42°C)によるHeLa細胞へのドキソルビシンの取り込み量について蛍光顕微鏡により評価した。37°C に比べ、42°Cでの細胞取り込み量が増加した。 MTTアッセイによって、細胞毒性への温度の影響を調べたところ、42°Cでは37°Cに比べて有意な細胞毒性を示した。また、疎水性ブロックにpH応答性のない温度応答性だけを持つミセルでは、細胞取り込みは42°Cで増加するが、細胞毒性は有意な差は見られなかった。これらのことから、温度応答性による細胞取り込みの促進と細胞に取り込まれた後のpH低下に伴うミセルの崩壊が細胞毒性に大きく寄与していることがわかった。そのため、このポリマーミセルは温度変化による細胞取り込みコントロールと細胞内小胞の酸性環境を認識し内包するドキソルビシンを効率良く放出する2段階の応答機能を持ち、加温した局所選択的に抗がん剤を送達できる可能性を持つ。
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