研究課題
本研究の目的は、従来評価法に対して①イオン液体を応用した微細形態観察手法及び②ナノ領域からの蛍光可視化手法を組み込むことで、歯周病などを始めとする難治性のバイオフィルム感染症治療のための高分子ナノ粒子キャリアを設計することである。本年度は、①のイオン液体を応用した微細形態観察手法の確立に着手し、試料に適した観察手法を確立することができた。この手法を用いて、表皮ブドウ球菌の増殖およびバイオフィルム形成機構をタンパク質レベルで捉え、病原体の生体機能を把握することに成功している。この得られた情報を基に、菌の増殖およびバイオフィルム形成を直接的に阻害することを目的とした高分子ナノ粒子製剤の作製を行った。様々な粒子表面修飾物質および高分子基剤の組み合わせを最適化することで、薬剤投与と比較して高い抗菌活性を持つ高分子ナノ粒子の作製に成功した。また、表面修飾物質や高分子基剤の種類により、高分子ナノ粒子のバイオフィルム除去能および形成菌に対する抗菌作用が異なることが明らかとなった。特に、高分子ミセル粒子は粒子径が100nm以下と小さいため、バイオフィルムの持つ水路と呼ばれる小孔に侵入しやすく、さらにミセルの持つ界面活性効果によりバイオフィルムおよび形成菌に対して有用であることがわかった。また、新規に開発したイオン液体を試料前処理に用いた手法により、ミセルタイプの粒子は菌の増殖を選択的に阻害することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、(1)新規に確立したイオン液体を試料前処理に用いた電子顕微鏡法によるバイオフィルム形成機構の解明、(2)バイオフィルム感染症治療のための高分子ナノ粒子製剤の作製及び従来評価法によるナノ粒子の機能評価、(3)作製した高分子ナノ粒子のバイオフィルムに対する付着、侵入挙動の形態学的評価、(4)透過型電子顕微鏡にカソードルミネッセンスを組み込んだ手法に適した試料作製法の検討を行った。本年度に計画していた(1)-(3)の研究に加え、次年度以降に予定していた(4)の研究を実施することができた。また、(1)-(4)それぞれの研究において、成果を得ることができた。【具体的な進捗状況】(1)で得られた情報に基づき、バイオフィルムの形成および菌増殖を阻害する高分子ナノ粒子を作製した。この作製したほとんどの高分子ナノ粒子で、薬剤投与よりも高いバイオフィルム除去能および形成菌への抗菌活性を確認している。この評価法としては、従来法による評価(物性評価や定量的な抗菌活性評価、共焦点レーザー顕微鏡による評価)と新規に確立した電子顕微鏡法による評価により行っている。これらの評価結果に基づき、バイオフィルムおよび形成菌に対し、高い効果を有する高分子ナノ粒子を選定し、ナノ粒子製剤の最適化を図っている。さらに、次年度以降に実施予定としている「透過型電子顕微鏡にカソードルミネッセンスを組み込んだ手法の確立」のため、この手法に適用可能な試料の作製法を試行している。この試みにより、高分子ナノ粒子への蛍光物質のラベリング手法を確立し、透過型電子顕微鏡内でのカソードルミネッセンス測定に成功している。
現在、研究は当初の予定に従って順調に進んでおり、次年度以降もスケジュール通りに進むものと考えられる。次年度以降は、(1)透過型電子顕微鏡にカソードルミネッセンスを組み込んだ手法によるナノ粒子の抗菌活性評価、(2)バイオフィルム感染症モデルマウスの作成とナノ粒子を投与したマウスのバイオフィルム感染症部位の評価、(3)バイオフィルム感染症治療を目的とするナノ粒子キャリアの最適化の3つの研究を実施して行く。透過型電子顕微鏡にカソードルミネッセンスを組み込んだ手法の確立については、研究協力者である武藤教授の協力により実施する。本年度に作製法を確立した蛍光物質をラベリングした高分子ナノ粒子をバイオフィルムに投与し、バイオフィルムに付着・侵入するナノ粒子の存在状態をカソードルミネッセンスで捉える。バイオフィルム感染症モデルマウスにナノ粒子を患部投与する実験では、ナノ粒子が抗菌作用をどの程度発揮するかを評価する。最終的に、これまでの総合評価により、実用化に向けた薬物送達用ナノ粒子キャリアを設計する。その際、設計したナノ粒子の性能は再度、これまでの評価を行うことで確認する。ナノ粒子の最適化には、研究協力者の山本教授の協力により実施する。得られた成果は、随時、論文および学会にて発表する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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