研究課題/領域番号 |
15K18849
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
高橋 知里 愛知学院大学, 薬学部, 助教 (50574448)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | バイオフィルム感染症 / ドラッグデリバリー / 高分子粒子製剤 / 電子顕微鏡 / カソードルミネッセンス / 金属ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、従来評価法に対して①イオン液体を応用した微細形態観察手法及び②ナノ領域からの蛍光可視化手法を組み込むことで、歯周病などを始めとする難治性のバイオフィルム感染症治療のための高分子粒子キャリアを設計することである。 2015年度には、①のイオン液体を応用した微細形態観察手法を確立しており、この手法を用いることで製剤および病原体の形態を捉えることに成功している。さらに、製剤と病原体の相互作用をナノスケールで明らかにし、その情報を高分子ナノ粒子製剤の設計にフィードバックさせている。 2016年度は、②のナノ領域からの蛍光可視化手法の確立のため、高分子粒子製剤のラベリングに適した電子線に強い蛍光物質の探索を行い、低波長側に蛍光波長を持つ無機材料の蛍光物質がイメージング・分析に適していることを明らかにしている。また、銀ナノ粒子を複合した高分子製剤の調製法の確立に成功しており、抗菌活性が高いことを確認している。 2017年度は、2016年度を受けて、様々な種類の高分子基剤を用いた銀ナノ粒子複合高分子製剤の調製法の確立を進めた。加えて、新たにイオン液体を封入した高分子製剤の設計を手掛け、液体含有製剤の調製に成功しており、①の観察手法を用いることで製剤中のイオン液体と病原体の固液界面の観察が可能であることを見出している。さらに、②の手法の確立のため、高分子製剤に均一に蛍光物質がラベリングできる方法を探索し、これまでよりも効率の良いラベリングが可能となった。マウスを用いた製剤の評価も実施し、未処理の高分子製剤に比べイオン液体を封入した高分子製剤の組織浸透能が非常に高いことを明らかにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、(1)銀微粒子を複合した高分子粒子製剤の設計、(2)イオン液体を封入した高分子製剤の設計、(3)透過型電子顕微鏡にカソードルミネッセンスを組み込んだ手法の確立、(4)表皮ブドウ球菌以外の菌を対象とした抗菌活性評価、(5)高分子粒子製剤を投与したマウスの評価の検討を行った。計画していた(3)の手法及びモデルマウス作成法はまだ確立できていないが、当初の計画で予定していなかった(1)(2)の研究を遂行することができた。上記の研究を通じて、いくつかの成果を得ることができた。 【具体的な進捗状況】 2016年度の実験とは異なる高分子基剤を使用し、新たな銀微粒子を複合した高分子粒子製剤の設計をすることに成功した。さらに、イオン液体を封入した高分子製剤の設計法の確立にも成功しており、これらの製剤は薬剤封入せずとも高い抗菌活性を示すことがわかった。ナノ領域からの蛍光可視化手法の確立においては、高分子製剤に対して蛍光物質の均一及び高効率なラベリングを可能とする手法を確立することができた。このラベリング手法を用いることで、病原体中の高分子製剤の存在を正しく捉えることが可能となった。しかし、電子線による蛍光物質のダメージが見られたことから、電子線に強い蛍光物質の探索が必要であると考えられる。製剤の抗菌活性評価では、3種の新たな菌を用いて評価を実施した。その中でも、レンサ球菌のバイオフィルムに対し、銀微粒子を複合した高分子粒子製剤及びイオン液体を封入した高分子製剤は高い抗菌活性効果を示すことがわかった。高分子粒子製剤を投与したマウスの評価では、イオン液体を封入した高分子製剤が高い組織浸透能を保持していることを明らかにした。 これらの試みを基にして、次年度以降には、透過型電子顕微鏡にカソードルミネッセンスを組み込んだ手法の最適化とモデルマウスの作成及びモデルマウスを用いた治療効果の評価を行う。
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今後の研究の推進方策 |
現在、モデルマウスの作成に関して大幅な遅れがあるものの、その他の実験に関しては概ね順調に進んでいる。次年度では、(1)透過型電子顕微鏡にカソードルミネッセンスを組み込んだ手法の最適化、(2)バイオフィルム感染症モデルマウスの作成と高分子粒子製剤を投与したマウスの評価、(3)バイオフィルム感染症治療を目的とする高分子粒子製剤の最適化の3つの研究を実施して行く。 透過型電子顕微鏡にカソードルミネッセンスを組み込んだ手法に関しては、電子線に強い蛍光物質を用いたラベリングを行うことで最適化を行う。加えて、バイオフィルム感染症モデルマウスの作成を行い、このマウスを用いてこれまでに調製した種々の高分子粒子製剤の治療効果を評価する。 モデルマウスの作成に関しては、外注もしくは研究協力者と進めていく。モデルマウスの作成が順調に進まない際には、代替案として、バイオフィルムを対象とした評価を実施する。この場合、菌種・形成時間の異なるバイオフィルムを作成し、それぞれのバイオフィルムに対し、調製した製剤がどのような効果を示すのかを統計的にまとめる。その結果を踏まえ、目的とする効能を十分に発揮することが可能な製剤の最適化を試みる。それらの設計した製剤の効能は、これまでに実施してきた評価法を用いて再度確認する。 得られた成果は、随時、論文および学会にて発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験を進める上で、目的の疾患を保持するマウスを予定通りに作成することが難しかったため。 また、新規イメージング手法の確立を手掛ける中で、新たな知見が得られたため研究計画の見直しを行ったが、必要な消耗品の調達に数か月を要しているため。 国際学会においても、社会情勢を考慮して2017年度の参加を取りやめており、2018年度に同学会への参加を予定している。
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