研究課題
患者数の増加が問題となっているアルツハイマー病(AD)は、脳内において病態変化が起こってから認知症を発症するまでの期間が長く、発症予防や根本的治療法の開発のためには発症前あるいは発症初期段階で脳内の病態変化を捉えられる方法を確立することが重要である。本研究は、これまでにAD発症初期から脳内において産生変化が起こることが示唆されているp3-Alcの定量測定系の構築およびそれを用いたAD患者サンプルの定量解析を行うことにより、ADの早期生化学的診断法の開発を行うことを目的として研究を進めている。p3-AlcはⅠ型膜タンパク質Alcadein(Alc)が二段階の切断を受けることによって産生される。ヒトではAlcにはAlcα、Alcβ、Alcγの3つのファミリー分子が発現し、本研究ではこれらのうち、Alcαから産生されるp3-Alcα、Alcβから産生されるp3-Alcβの定量解析系の確立を行い、AD患者の脳脊髄液(CSF)および血液において定量解析を行う。本年度は抗p3-Alc抗体を作成し、sELISA系を構築した。また、ヒトCSFおよび血液中のp3-Alcの定量法の検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
Alcの二次切断を行うγセクレターゼは切断の多様性があるため、p3-AlcにはC末端が異なる複数の分子種が存在する。p3-Alcαの主要分子種であるp3-Alcα35(35アミノ酸)の定量系はすでに確立しており、孤発性AD患者のCSFおよび血中で産生量が変化することが示唆されている。しかし、AD診断マーカーとして応用するには特異性や感度が十分ではないため、AD患者において存在比の増加が示唆されているp3-Alcα38(38アミノ酸)の定量系を目指し、抗体作製およびsELISA系の構築を行った。その結果、CSF中のp3-Alcα38を検出可能な定量系を確立することができた。また、少数のAD患者CSFを用いて、p3-Alcの定量解析を行ったところ、AD患者で有意に量的変化が起こっていることが明らかとなった。
AD患者を早期にスクリーニング診断するためには、CSFよりも血液マーカーが有用であるため、血中p3-Alcの定量法の確立を目指している。Alcは神経系に発現するタンパク質であり、CSFから末梢血液中に移行するp3-AlcはCSF中の1/100程度であり、なおかつ血中には測定阻害物質が存在するため、血中p3-Alcの定量するためには高感度測定系の作成および血中p3-Alcの抽出法の検討が必要である。そのためまずはp3-Alcの高力価抗体の作成を行う。また、血中の阻害物質の除去方法およびp3-Alcの抽出方法の検討を行い、定量系を確立する。系を確立後、AD患者サンプルを用いて定量解析を行い、量的変化が起こっているか、あるいは分子種の産生比率変化が起こっているかを解析し、早期生化学診断法として応用可能かを検証する。
平成28年3月31日までに支払いを終えた金額であるため、実際には3月31日までの発注納品済みの物品費を合計すると、未使用額はない。
なし
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
J. Biol. Chem.
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FEBS Lett
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