研究課題
本研究では、脳腫瘍におけるアルギニンメチル化酵素(PRMT)の役割を解明することを目的としており、当該年度は「 PRMT の発現制御による脳腫瘍細胞への影響」ならびに「脳腫瘍細胞における PRMT 標的タンパク質の同定」について研究を行った。昨年度の結果より、脳腫瘍培養細胞において PRMT8 の発現が負に制御されていることが示唆されたことから、脳腫瘍培養細胞に PRMT8 を過剰発現した際にどのような変化が起こるか検討した。その結果、PRMT8 過剰発現細胞では細胞増殖の抑制が認められた。次に、コントロール細胞と PRMT8 過剰発現細胞における対称型ジメチルアルギニン(SDMA)、非対称型ジメチルアルギニン(ADMA)、モノメチルアルギニン(MMA)量の比較をウェスタンブロット法により行った。予想に反して、PRMT8 を過剰発現した細胞において、SDMA、ADMA、MMA 量に変化は認められなかった。また、ヒストン H3 においてメチル化が報告されている2番目、8番目のアルギニンに対するメチル化抗体を用いてウェスタンブロット法を行ったところ、PRMT8 過剰発現による変化は認められなかった。以上の結果より、PRMT8 は脳腫瘍細胞において細胞増殖抑制作用を持つことが明らかとなったが、その機構はヒストンおよび非ヒストンタンパク質のメチル化といった従来知られている PRMT8 の作用を介していない可能性が示唆された。
3: やや遅れている
昨年度、ウェスタンブロット法における PRMT8 の検出抗体を見出すために研究が一時停滞した。今年度は研究をスムーズに進めることができたが、昨年度分の遅れを取り戻すまでには至らなかった。
PRMT8 はメチル化酵素であることから、当初はそのメチル化の標的となるタンパク質を同定・解析を行う計画であった。しかしながら、今年度の研究成果から、メチル化以外の機構により細胞増殖に関わるタンパク質を制御している可能性が示唆された。今後は、マイクロアレイまたは抗体アレイを用いて、PRMT8 の標的タンパク質を同定し、その制御機構について研究を進めたいと考えている。
前年度、ウェスタンブロット法に用いる検出抗体の問題により、研究が停滞していたことから、当初予定していた計画より進捗が遅れているため。
今後はマイクロアレイまたは抗体アレイを用いて研究を進める予定である。アレイ実験を行うための消耗品は高価であることから、この次年度使用額をもって研究を押し進めたいと考えている。
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Cancer Science
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10.1111/cas.13133
Cancer Medicine
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