本研究では、脳腫瘍におけるアルギニンメチル化酵素(PRMT)の役割を解明することを目的としており、当該年度は「脳腫瘍細胞における PRMT 標的タンパク質の同定」について研究を行った。 昨年度までの結果より、脳腫瘍細胞における PRMT8 の細胞増殖抑制作用は、ヒストンおよび非ヒストンタンパク質のメチル化といった、従来知られている PRMT8 の作用を介していない可能性が示唆された。そこで、PRMT8 の標的タンパク質についてさらに網羅的な検討を行うこととした。癌細胞の増殖に関わる抗体が10数種類のっているアレイを用いて検討を行ったところ、PRMT8 を過剰発現した脳腫瘍培養細胞では、細胞周期の進行に重要な役割を果たしている Rb タンパクのリン酸化が劇的に低下していた。この PRMT8 過剰発現による Rb タンパクのリン酸化低下は、ウェスタンブロットによっても確認できた。さらに詳細に検討を行ったところ、PRMT8 過剰発現によって Rb タンパク質自体の発現が減少していることを明らかにした。 以上の結果より、PRMT8 が脳腫瘍細胞において Rb タンパク質の発現を抑制することが明らかとなった。また、Rb タンパク質の発現を抑制した結果、リン酸化 Rb タンパク質の量を減少させ、G1 期から S 期への細胞周期の進行を遅らせることにより、PRMT8 は脳腫瘍細胞の増殖を抑制することが示唆された。これは、これまで知られていた作用とは全く異なる新たな PRMT の作用の可能性を示すものである。
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