研究課題
本研究の目的は,インスリン抵抗性改善を目指したジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)による筋分化促進機構の解明へ向けて,研究計画書に基づき,1. 細胞レベルでのミリスチン酸によるDGKδの転写調節機構と2. DGKδによる筋分化促進機構を解明のために研究を遂行し,以下の成果を得た.1. マウスC2C12筋芽細胞へのミリスチン酸添加は,DGKδの発現を転写レベルで増加させ,グルコースの取り込みを増加させる.従って,グルコースの取り込み増加がミリスチン酸によって発現増加したDGKδによって制御されているのか否かを確認するために,DGKδの発現を抑制したところ,ミリスチン酸添加によって増加するグルコースの取り込みが抑制された.逆に,DGKδを安定高発現させた細胞ではグルコースの取り込みが増加することがわかった.以上より,ミリスチン酸によるDGKδの発現増加は,グルコースの取り込みを正に制御することが強く示唆された.2. C2C12筋芽細胞を用いて,筋分化過程におけるDGKδと筋分化マーカーの発現パターンを調べたところ,筋形成制御因子myogeninと細胞周期からの分化移行に関与するcyclin D3は分化48時間後に誘導され,逆に,細胞周期調節因子cyclin D1は分化24時間以内に顕著に減少した.一方で,DGKδの発現は分化48時間に半減していた.この分化過程においてDGKδの発現を抑制したとき,分化48時間後のmyogeninとcyclin D3の発現が抑制され,逆に,cyclin D1は増加することがわかった.さらに,筋形成に関わるmyosin heavy chainの発現細胞数は半減していた.以上より,DGKδは,細胞周期から分化への移行を正に制御する役割を担うことが考えられた.
2: おおむね順調に進展している
細胞レベルでのミリスチン酸によるDGKδの転写調節機構の解明に関しては,ミリスチン酸によるDGKδの発現増加は,グルコースの取り込みを正に制御することが強く示唆された.一方で,DGKδによる筋分化促進機構を解明においては,DGKδは,細胞周期から分化への移行を正に制御する役割を担うことが考えられ,予定通りの成果を得ることができた.従って,全体的に本研究は平成27年度の実施計画に基づきおおむね順調に進展していると判断した.
1. 細胞レベルでのミリスチン酸によるDGKδの転写調節機構の解明 ミリスチン酸によるDGKδの発現増加は,グルコースの取り込みを正に制御することが強く示唆されたことから,28年度はDGKδのプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子上流に組み込んだプラスミド(作製済み)を用いてプロモーター解析を行い,ミリスチン酸に関連する転写因子を同定する.2. 細胞レベルでのDGKδによる筋分化促進機構の解明 DGKδの発現をsiRNAを用いて抑制したとき,myogeninとcyclin D3の発現が抑制され,逆に,cyclin D1は増加していた.さらに,筋形成に関わるmyosin heavy chainの発現細胞数は半減していたことから,DGKδは,細胞周期から分化への移行を正に制御する役割を担うことが考えられた.従って,28年度は,DGKδの高発現株をレンチウイルスを用いて作製し,DGKδの発現を高発現したときには,逆に,分化が促進されるか否かを明らかにする.さらに,ミリスチン酸はDGKδの発現を増加させることから,ミリスチン酸添加時に分化が促進されるか否かを調べる.最近,申請者らは,筋細胞におけるグルコースの取り込みのために,DGKδはPCに由来するパルミチン酸含有DG分子種を選択的に代謝することが重要であることを示した.従って,筋分化過程においても,DGKδはPCに由来するパルミチン酸含有DG分子種を代謝するのか否かを明らかにする.3. 骨格筋におけるミリスチン酸によるDGKδ発現増加と骨格筋量の増加(グルコース取り込み増加)との関連性 野生型マウスの餌にミリスチン酸を添加し,マウス骨格筋中のDGKδの発現が増加するか否かを調べる.また,DGKδの発現増加時には,骨格筋量が増加することを確認する.さらに,増加した骨格筋量とグルコース取り込み量増加との関連性について,血中グルコースの濃度の変化を調べることで明らかにする.
本研究の遂行のためには多くの細胞培養用の試薬・器具を必要とするが,研究が順調に遂行でき,結果的に,予算の節約に繋がった.
生じた使用額については,次年度,DGKδの安定高発現株を新たに作製する必要があるため,その発現株の作製のための試薬類に使用する予定である.
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