研究課題/領域番号 |
15K18861
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田中 亜紀 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 助教 (50432109)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 転写開始 / 基本転写因子TFIIE / RNAポリメラーゼII clamp領域 |
研究実績の概要 |
本研究ではクロマチン構造変換複合体であるSWI/SNF複合体が、基本転写因子TFIIEを介してRNAポリメラーゼII(Pol II)の転写開始複合体を制御して、転写の活性化に寄与しているのかを解明することを目指す。そのためにヒトTFIIEが、(1)転写開始複合体で転写を活性化させる分子機構、(2)SWI/SNF複合体との相互作用を介して転写を活性化させる分子機構の二方面から解析を進めている。我々の行った実験で、Pol IIのclamp領域に対してTFIIEだけでなくTFIIBも協調的に結合する一方で、TFIIEとDSIFは競合的に結合した。さらにTFIIBはPol IIのclamp領域に対してDSIFと競合的に結合した。そこで古細菌RNAポリメラーゼのclamp領域とDSIFの構造解析を基に、clamp領域のアミノ酸に点変異を導入した組換え体を作成して解析を進めている。またTFIIE, TFIIBおよびDSIFのPol II clamp領域における鋳型DNA上で転写活性に与える影響を調べるために、immobilized templateアッセイによりタンパク間相互作用の解析を進めている。これまでの我々の研究でTFIIEとTFIIBは協調的に転写開始から伸長への移行段階を制御していることを報告しており、今回の結果を含めるとPol IIのclamp領域において、転写開始段階および開始から伸長への移行段階でTFIIEとTFIIBが協調的に機能して、伸長段階ではTFIIEとTFIIBの二つの因子とDSIFが入れ替わり機能すると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではヒトTFIIEが、(1)転写開始複合体で転写を活性化させる分子機構、(2)SWI/SNF複合体との相互作用を介して転写を活性化させる分子機構の二方面から解析を進めている。Pol IIのclamp領域はその活性を発揮するために構造変換が大きい領域であり、転写を開始するときにはPol IIがDNAを挟み込みやすくするためにclamp領域にTFIIEが結合し、転写伸長のときにはclamp領域に転写伸長因子であるDSIFが結合して、Pol IIがDNAを安定に挟み込むことを助けていると考えられている。我々の行った実験で、Pol IIのclamp領域に対してTFIIEだけでなくTFIIBも協調的に結合する一方で、TFIIEとDSIFは競合的に結合し、さらにTFIIBはPol IIのclamp領域に対してDSIFと競合的に結合した。そこで古細菌RNAポリメラーゼのclamp領域とDSIFの構造解析を基に、clamp領域のアミノ酸に点変異を導入した組換え体を作成して解析を進めている。さらに以前、我々はTFIIEαの酸性領域とTFIIHのp62サブユニットのPHドメインのNMR結晶構造を報告している。DSIFのサブユニットであるSPT5はN末側に酸性領域を有しており、この酸性領域の配列の一部がTFIIEαの酸性領域の配列と類似している。このことから転写開始で機能するTFIIEと転写伸長で機能するDSIFの入れ替わりの足場としてTFIIHが機能している可能性を考え、ヒトSPT5の酸性領域の点変異体およびp62 PHドメインの点変異体を作成して解析を進めている。またTFIIEとTFIIBのPol II clamp領域におけるDSIFとの入れ替わりに、それらの因子とTFIIH, Mediator複合体, pTEFbによるリン酸化修飾等の翻訳後修飾による制御を含めた解析を進めており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
TFIIEを介したPol IIの活性制御機構の解析に関しては、Pol IIのclampに対してTFIIEとTFIIBは協調的に結合する一方で、TFIIEとDSIFは競合的に結合し、TFIIBとDSIFも競合的に結合することが示された。Pol II clamp領域の点変異体を用いた解析を進める一方で、精製Pol IIを用いた解析を進めていく。さらにこれらの因子が鋳型DNA上で転写活性に与える影響を調べるために、immobilized templateアッセイによりタンパク間相互作用の解析や転写活性の評価を行う。また転写過程においてTFIIH, メディエーター複合体、pTEFbのキナーゼ活性が重要であることが知られており、我々が行った実験においてもTFIIEはTFIIHによりリン酸化されることから、このリン酸化修飾が、Pol IIのclamp領域におけるTFIIEとDSIFの入れ替わりに影響を与えるのか、TFIIE以外の因子のリン酸化修飾の影響を含めて検討する。一方でTFIIEとSWI/SNF複合体による転写活性化機構の解析に関しては、TFIIEの変異体を用いてSWI/SNF複合体との相互作用領域を同定し、in vitro転写アッセイによる転写活性の評価を行い、クロマチン免疫沈降法によりTFIIEとSWI/SNF複合体のDNA上の局在の解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年8月1日から平成29年3月31日、産前産後の休暇および育児休業により業務を離れていたため次年度の使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後の研究の推進方策の欄に記載した通り、TFIIEを介したPol IIの活性制御機構の解析に関しては、Pol II clamp領域の点変異体を用いた解析を進める一方で、精製Pol IIを用いた解析を進めていく。さらにこれらの因子が鋳型DNA上で転写活性に与える影響を調べるために、immobilized templateアッセイによりタンパク間相互作用の解析や転写活性の評価を行う。また転写過程においてTFIIH, メディエーター複合体、pTEFbのキナーゼ活性が重要であることが知られており、我々が行った実験においてもTFIIEはTFIIHによりリン酸化されることから、このリン酸化修飾が、Pol IIのclamp領域におけるTFIIEとDSIFの入れ替わりに影響を与えるのか、TFIIE以外の因子のリン酸化修飾の影響を含めて検討する。
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