研究実績の概要 |
本年度は、新生仔ラットより調製した大脳皮質組織切片培養系により、ウアバインによるNa+, K+-ATPaseの薬理学的な阻害による血管構造傷害機序について解析した。その結果、小胞体からのCa2+放出が血管内皮細胞傷害に関与しており、Na+, Ca2+交換系を介した細胞外からのCa2+流入は血管内皮細胞傷害には関与しない事が示唆された。さらにN-アセチルシステインが血管内皮細胞を保護した事から、Na+, K+-ATPase阻害により誘導される小胞体からのCa2+放出が活性酸素種の産生を増大し、血管内皮細胞を傷害する事が示唆された。 さらに、Na+, K+-ATPase阻害時に動員される細胞内シグナル伝達系についても解析した。ウワバイン処置によりAktのリン酸化が認められた事から、血管構造傷害におけるPI3-kinase/Aktシグナルの関与について検討したところ、PI3-kinase阻害薬であるLY294002の単独処置により血管内皮細胞のみならず、ペリサイトの傷害も認められた。この事から、Na+, K+-ATPase阻害時に活性化するPI3-kinase/Aktシグナルは内因性の細胞保護シグナルとして働くと考えられた。興味深い事に、脳血管を構成するペリサイトはNa+, K+-ATPase阻害によっても傷害を受けなかった事から、血管内皮細胞とペリサイトの細胞種特異的な生存機構の存在が示唆された。 活性酸素の関与について、8-nitro-cyclicGMPの産生やタンパク質S-グアニル化について解析したところ、ウアバイン処置によりS-グアニル化が亢進するタンパク質が存在する一方で、反対にS-グアニル化が抑制されるタンパク質も存在した。さらに免疫組織化学の結果、8-nitro-cyclicGMPは主にミクログリアで産生されており、今後はグリア細胞の活性化に着目した解析も行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はNa+, K+-ATPaseの薬理学的な阻害による血管内皮細胞傷害機序の詳細について解析を行い、小胞体からのCa2+放出や活性酸素種の産生が細胞傷害性に関与する事を見出した。さらに細胞内シグナル伝達系に着目した解析から、PI3-kinase/Aktシグナルの活性化が血管内皮細胞およびペリサイトの生存に関わる内因性の保護シグナルである事も明らかにした。加えて、8-nitro-cyclicGMPの産生およびタンパク質S-グアニル化レベルについても解析し、Na+, K+-ATPase阻害によるミクログリアの活性化状態の変化が血管内皮細胞傷害に重要な役割を担う事が示唆された。これらの結果の一部については、現在論文投稿中 (Brain Research, submitted) である。
|