研究実績の概要 |
昨年度の成果を基に、新生仔ラットより調製した大脳皮質組織切片培養系により、ウアバインによるNa+, K+-ATPaseの薬理学的な阻害による血管構造傷害機序について詳細な解析を行い、この成果をBrain Researchに論文投稿した (Kurauchi Y. et al., Brain Research, 2016, 1644; 249-257)。さらに本年度は、Na+, K+-ATPaseの薬理学的な阻害が神経細胞傷害を誘導する事を新規に見出し、そのメカニズムについても併せて解析を行った。その結果、Na+, K+-ATPaseの機能阻害によりグリア細胞 (ミクログリアおよびアストロサイト) の異常な活性化が誘導されること、グリア細胞に発現するグルタミン酸トランスポーター (GLT-1およびGLAST) の発現量が減少することを見出した。さらに、NMDA型グルタミン酸受容体阻害薬であるMK801およびD-AP5や、細胞外カルシウムキレート剤であるEDTAがNa+, K+-ATPaseの機能阻害による神経細胞傷害をほぼ完全に抑制することも見出した。これらの結果は、Na+, K+-ATPaseの機能阻害による細胞外グルタミン酸レベルの上昇が、脳血管障害および神経傷害に関与する事を示唆している。本研究期間では、Na+, K+-ATPase機能阻害によりS-グアニル化修飾を受ける特異的タンパク質の同定には至らなかったが、多くの候補タンパク質を検出する事ができた。これらの研究結果は、第9回 国際NO学会/第16回 日本NO学会学術集会 (仙台)、日本・トルコ薬学・生命科学国際シンポジウムで発表した。これらの成果は、脳血管障害および神経傷害発症の分子基盤を解明する上で有用な基礎的知見だと考えられる。
|