エネルギー代謝を担うミトコンドリアは、加齢に伴い様々な器官・組織において数や品質の低下を示す。また、ミトコンドリアの減少や機能不全は活性酸素種(ROS)の蓄積や脂質・糖代謝の変化、さらには組織・個体老化や加齢性疾患(ガンや心筋梗塞、パーキンソン病など)につながる。これらの事実から、ミトコンドリア生合成を標的とした加齢性疾患の治療法が考えられる。しかし、ミトコンドリア生合成の分子機構の理解やそれを標的とした薬剤開発の試みは未だ不十分である。そこで本研究では、人工のランダム短鎖ペプチドライブラリーの中から、ミトコンドリア生合成を促すものを単離し、それが標的とするタンパク質やその部位を同定、解析することで加齢性疾患などに対する分子標的候補を示すことを目的とした。 初めに、ミトコンドリア生合成促進因子のPGC-1αの転写活性やミトコンドリア量をEGFPによりモニターできるレポーターアッセイ系を用いて、5×10^6~1×10^7の複雑度のペプチドライブラリ-の中から、目的の生理活性を持つ短鎖ペプチドの絞り込みを行った。その結果、約80の候補ペプチドを単離した。次に、その候補から内因性のPGC-1αの転写を促すペプチドをRT-qPCR法により探し、最終的に4つのペプチドを得ることができた。それら4ペプチドは核内で機能し、さらに1ペプチドについては生理活性に必要なアミノ酸部位も明らかとした。加えて、yeast two hybrid法を用いたスクリーニングにより、このペプチドの標的候補としてp53のC末側断片が同定できた。p53は細胞老化においてPGC-1αの転写を直接抑制することが報告されている。現在、別の手法によりp53とこのペプチドの相互作用を検討中であるが、このペプチドを含む4ペプチドの作用機序を明らかとできれば、加齢性疾患の治療などに対する新たな分子標的の情報提供が期待される。
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