研究課題/領域番号 |
15K18873
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
林 周作 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 助教 (10548217)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 炎症性腸疾患 / 腸管マクロファージ |
研究実績の概要 |
本研究は、腸管粘膜におけるCD206陽性マクロファージの役割を解明することを目的としている。具体的にはCD206陽性マクロファージが上皮細胞や他の免疫細胞と連携し、腸管粘膜の恒常性維持に寄与する機構を明らかにすること、CD206陽性マクロファージが炎症性腸疾患において傷害を受けた腸管粘膜の修復を促進する機序を明らかにすることを焦点にし研究を行う。 上記目的を達成するため、CD206陽性マクロファージを特異的に任意の時期で除去可能な遺伝子改変マウス(CD206DTRマウス)を用い、腸管粘膜におけるCD206陽性マクロファージの役割について研究を行った。腸管粘膜に存在する腸管マクロファージのうち約20%がCD206陽性マクロファージであり、CD206DTRマウスを用いた場合、CD206陽性マクロファージの約90%を除去することができる。 腸管マクロファージは抗炎症性サイトカインであるIL-10を高産生することにより腸管粘膜の恒常性維持に寄与する。CD206陽性マクロファージを除去した腸管マクロファージは、リポ多糖刺激によるIL-10のmRNA発現の上昇を示さなかった。このことから、CD206陽性マクロファージは腸管粘膜においてIL-10の産生細胞として働く可能性が示唆された。 腸管上皮のin vitro損傷修復モデルにおいて腸管マクロファージを腸管上皮細胞と共に培養すると、腸管上皮細胞の損傷修復が促進され、CD206陽性マクロファージを除去した腸管マクロファージは腸管上皮細胞に対する損傷修復促進作用が消失していた。さらにin vivoモデルを用いて解析を行ったところ、CD206DTRマウスではWTマウスに比べ腸管粘膜の修復遅延が認められた。以上のことから、CD206陽性マクロファージは炎症により傷害された腸管粘膜を修復し、炎症性腸疾患を改善する可能性が考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CD206陽性マクロファージが腸管粘膜においてIL-10の産生細胞として働いており、CD206陽性マクロファージはIL-10の産生を介して腸管粘膜の恒常性維持に寄与する可能性を示す知見を得ることができた。 CD206陽性マクロファージを除去したマウスでは、炎症により傷害された腸管粘膜の修復が遅延すること、CD206陽性マクロファージは腸管上皮の損傷修復を促進させる作用を有することが明らかとなった。これらのことから、CD206陽性マクロファージが腸管粘膜の修復促進を介した炎症性腸疾患に対する新たな治療標的となりうる可能性を示すことができた。 これまでの研究から、腸管粘膜におけるCD206陽性マクロファージの生理学的・病態生理学的役割の一端を示すことができたが、腸管粘膜の恒常性維持におけるCD206陽性マクロファージと他の細胞とのクロストークやCD206陽性マクロファージが腸管上皮の損傷修復を促進する機序の解明については今後の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
腸管粘膜におけるCD206陽性マクロファージの生理学的および病態生理学的役割を包括的に解明し、CD206陽性マクロファージを標的とした炎症性腸疾患に対する新たな治療戦略の提示を可能にするために以下の研究を予定している。 CD206陽性マクロファージが腸管粘膜の恒常性維持に寄与することを解明するため、1. 上皮細胞のバリア機能や他の免疫系細胞の機能に対するCD206陽性マクロファージの作用について解析を行う。2. CD206陽性マクロファージを除去することによって腸管粘膜に炎症を惹起することができるかを明らかにする。 CD206陽性マクロファージが腸管粘膜上皮の損傷修復を促進する機序を明らかにするため、1. CD206陽性マクロファージが産生し、損傷修復促進作用を仲介する生理活性物質を同定する。同定した生理活性物質の上皮細胞の遊走および増殖に対する作用や上皮細胞内でのシグナル伝達を解析する。2. 炎症性腸疾患モデルを用い、傷害された腸管粘膜の修復期におけるCD206陽性マクロファージの1.で同定した生理活性物質の産生能を解析する。3. 1.および2.で明らかにしたCD206陽性マクロファージが産生し腸管粘膜の修復を促進する生理活性物質を炎症性腸疾患モデルに投与し、腸管粘膜の修復が促進されるかを明らかにする。
|