プロスタグランジン(PG)は生体膜リン脂質からホスホリパーゼによって切り出されたアラキドン酸から、シクロオキシゲナーゼを律速酵素として産生される代表的な生理活性脂質であり、発熱、疼痛、炎症を代表とする様々な生理作用を示す。本研究では、PG受容体による新規脂質代謝調節機構を明らかにすることを目的として、申請者はこれまでに、PGE2受容体EP4の欠損マウスを用いて、EP4受容体による脂肪蓄積の制御機構を解析してきた。EP4受容体欠損マウスは通常食条件下において白色脂肪組織重量亢進の表現型を示す一方、肝臓への脂肪蓄積は少なく、EP4受容体は生体中の脂質分布を制御していると考えられた。今年度はEP4機能を担う責任細胞を同定するために、細胞特異的EP4欠損マウスの解析を行った。その結果、脂肪細胞特異的EP4欠損マウスにおいて、脂肪重量の亢進が認められた。また、肝臓や骨格筋などの他のエネルギー代謝器官においてはEP4受容体の発現レベルが低いことからも、脂肪細胞に発現するEP4受容体が、脂質制御に大きく寄与していると考えられた。また、EP4受容体シグナルによる脂質代謝調節能を直接評価するため、マウスに対するEP4作動薬の長期投与実験を行ったところ、EP4作動薬は肥満モデルマウスの組織中脂質分布を変化させた。本研究で得られた知見は、EP4受容体が脂質異常症などの疾患の治療標的として有用である可能性を示唆するものと考えられる。
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