ムスカリン受容体は、副交感神経を活性化する神経伝達物質であるアセチルコリンの受容体である。ムスカリン受容体にはM1~M5の5種類がある。中でもM1受容体を活性化すると認知機能が向上することが見出され、認知症治療薬の重要な標的の1つとされる。これまでに種々のムスカリン受容体作動薬が合成されてきたが、多くは心臓のM2受容体や消化器のM3受容体も活性化してしまうため、徐脈や嘔吐などの副作用がみられた。本課題を解決すべく、これまでの研究で見出したM1/M4受容体を選択的に作動する骨格を足掛かりに、M4作動性発現に必須の鍵構造であるN-carbethoxypiperidine構造を変換することでM4作動性のみを焼失させ、M1受容体に選択的な作動薬を見出すことを目的として本研究を開始した。 まず、テトラヒドロピラン環を導入した化合物を合成したところ、期待通りM1受容体のみを選択的に作動した。そこで、光学活性体をそれぞれ合成することとした。R体、S体それぞれの光学活性体を合成してM1受容体作動性を評価した結果、S体がR体に比べて高いM1受容体作動性祖示すことを明らかにした。また、R体はM1受容体の最大作動性が20%程度で部分的であったことから、M1受容体部分作動薬である可能性が示された。さらに低濃度から作動性を示す化合物を見出すべく、テトラヒドロピラン環に比べてM1受容体作動性が強いことが期待できるN-acetylpiperidine構造を導入した化合物をそれぞれ光学活性体で合成した。これらはテトラヒドロピラン体よりも高いM1受容体作動性を示した。 本研究では、選択的M1受容体作動薬および部分作動薬を見出した。これらの知見は認知症およびパーキンソン病などの治療薬創出に貢献できる有用な知見になると期待する。
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