研究課題/領域番号 |
15K18905
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
三澤 隆史 国立医薬品食品衛生研究所, 有機化学部, 主任研究官 (40709820)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ヘリカルペプチド / 細胞膜透過性 |
研究実績の概要 |
ペプチドが機能を発揮するためには機能発現に必要な官能基が空間的に適切な位置に配置されることが必要である。そのため、ペプチド自体の構造を制御する方法論の確立は機能性ペプチドの開発のために必須である。そのため、ペプチドの構造と官能基に着目した研究は盛んに行われている。しかし、これらのペプチドはその用途毎に合成しなければならず、合成の煩雑さもあり多種類のペプチドを合成するためには多大な労力と時間が必要であった。本研究では、『多様な活性の付与を指向した安定化ヘリカルテンプレートペプチドの開発』を目的とする。すなわち、クリック反応を指向したアジド基を含むアミノ酸を合成し、安定化ヘリカルペプチドに導入する。その後、様々な置換基をクリック反応を用いて導入することで多様な生理活性を付与する。本研究の完成は一つのペプチド分子をテンプレートとして、置換基を選択することで様々な生理活性ペプチドの創製が可能になる。CDスペクトルを用いて合成したペプチドの二次構造解析を行ったところ、ジ置換アミノ酸でAibおよびアジド基を有するAzlからならノナペプチドは安定なヘリカル構造を示すことを見出した。次にヘリカル構造を形成したペプチドに対し、クリック反応を用いて、各種官能基の導入が可能かどうかを検討した。まず、クリック反応の条件を精査し、その反応速度は遅く、全てのアジド基で反応が完結するまでに3日程度要することを見出した。さらに、クリック反応によりグアニジノ基を導入した場合、そのヘリカル構造が維持されていること、さらにはグアニジノ基の導入による細胞膜透過性の付与にも成功した。これらの知見は、生理活性ペプチドデザインにおける二次構造制御と適切なアミノ酸配列の両立を目指す上で効率的な手法であることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では安定化ヘリックスペプチドをテンプレートとして、post-modificationを行うことで多様な生理活性ペプチドを合成する。具体的には、①ヘリックス構造を安定化するジ置換アミノ酸にアジド基を導入したアミノ酸の合成、②合成したアミノ酸を用いてペプチドを固相合成し、NMRやCDスペクトルを用いて構造解析、③クリック反応を用いて多様な生理活性の付与、さらには、構造活性相関解析にも応用可能であることを示すことを目的とした。その結果、クリック反応の足場となるアジド基を有し安定なヘリカル構造を示す安定化ヘリカルペプチドの合成に成功した。さらに、クリック反応を用いて細胞膜透過性に必要なグアニジノ基を、ヘリカル構造を維持したまま導入可能であることを見出した。グアニジノ基を導入したことで、細胞膜透過性も付与することが可能であり、生理活性の付与にも活用できることが示唆された。クリック反応で導入する置換基や生理活性物質を選択することで、様々な生理活性の付与が可能であることが示され、本研究課題で期待した結果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにクリック反応を用いて生理活性の付与を志向した安定化ヘリカルテンプレートペプチドの合成を行い、ヘリカル構造を維持したまま様々な生理活性が付与可能なペプチドの創製に成功した。しかし、その応用例は細胞膜透過性あるいは、水溶性官能基であるPEG鎖の導入などの数例しかなく、今後より多くの官能基の導入を試みることで、その一般性についても検討する必要があると考えている。また、クリック反応は不可逆的な反応であるため、導入した置換基が脱離することができないなどの問題点を抱えている。今後、状況に応じた官能基の着脱を可能にすることが可能になれば、より柔軟な分子変換および生理活性ペプチドの開発が可能になると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
多様な生理活性の付与を志向したヘリカルテンプレートペプチドの開発を行い、ヘリカル構造を維持したまま多様な官能基の導入可能なペプチドを見出した。その応用として細胞膜透過性の付に成功し、国際誌に論文を1報報告した。さらにその一般性を検討すべく異なる活性の付与を検討する必要がある。これらの追加実験は補助授業の目的をより精緻に達成するために重要である。これらの目的達成のため、次年度使用が生じた。
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