研究実績の概要 |
本研究は、大気中に存在する芳香族炭化水素類の親電子性代謝物であるキノン体による芳香族炭化水素受容体(AhR)の活性機序を明らかにすることを目的としている。本研究期間を通じて、1,2-ナフトキノン、1,4-ナフトキノン、1,4-ベンゾキノンおよびtert-ブチル-1,4-ベンゾキノン等がAhRの下流遺伝子であるCyp1a1を誘導することを明らかにした。 1,2-ナフトキノン、1,4-ナフトキノン、1,4-ベンゾキノンおよびtert-ブチル-1,4-ベンゾキノン等をHepa1細胞に曝露するとAhRの下流タンパク質であるCyp1a1が誘導されたが、それらの母化合物であるベンゼンやナフタレンでは誘導が認められなかった。AhRアンタゴニストおよびAhRに変異を有するC35細胞では、キノン体によるCyp1a1の誘導が検出されなかった。また、キノン体曝露により、AhRの核移行し、AhR-ARNT相互作用の亢進およびXREルシフェラーゼ活性の亢進が認められた。これらの一連の結果から、キノン体はAhR依存的にCyp1a1を誘導することが示唆された。AhR変異体を用いた検討で、1,2-ナフトキノンは、AhRの少なくともCys327を修飾してAhRを活性化する可能性が示された。キノン体曝露で見られたAhRの活性化およびCyp1a1の誘導は、HepG2細胞およびA549細胞でも認められたことから、Hepa1細胞特異的な現象ではないことが明らかとなった。 さらに、AhRを活性化し得る環境中キノン体を効率よくスクリーニングするために、細胞外AhR活性測定系を開発した国立台湾大学のLee教授と共同研究を行った。細胞外AhR活性測定系を応用したアッセイを立ち上げ、本アッセイで1,2-ナフトキノンを感知することに成功した。
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