研究課題/領域番号 |
15K18910
|
研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
藤木 恒太 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80632504)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | カドミウム / 肺癌 / 悪性化 / Notch1 |
研究実績の概要 |
カドミウムは環境汚染物質であり、主に喫煙や採鉱時に呼吸器を経由して曝露され、その結果、肺、腎臓などの組織において、機能障害やがんを誘引することが報告されている。培養細胞や個体レベルの実験系からも、高濃度カドミウムを急性曝露すると、細胞レベルで細胞死を誘導する一方、長期間カドミウムを曝露すると、細胞のがん化が誘導されることが報告されている。しかしながら、がんの悪性化、特にがんの転移能・浸潤能に対し、カドミウムがどのような影響を与えるのかは未だに明らかにされていない。そこで、本研究においてがん細胞の転移能・浸潤能に対するカドミウムの影響を明らかにすべく、解析を行うことにした。 これまでに解析を行った結果、カドミウムを肺胞基底上皮腺がん細胞(A549細胞)に長期曝露すると、細胞移動能を促進する上皮間葉転移(EMT)が惹起されることが観察された。また、ストレスファイバーの形成、細胞移動能の上昇が観察された。これらは、カドミウム曝露によって細胞が浸潤しやすい状態、すなわち悪性度がより高い癌へと移行していることを示唆している。一方、カドミウム長期曝露によって、膜貫通型受容体かつ転写因子であるNotch1シグナルが活性化していることも観察された。さらに、Notch1シグナルを阻害すると、カドミウム曝露依存的なEMTの惹起、ストレスファイバーの形成、細胞移動能の促進がすべて部分的ではあるが、抑制されることが見出された。 一方、カドミウム長期曝露依存的にSGK1の発現量の低下とその基質であるNDRG1のリン酸化の低下も確認された。また、SGK1を機能阻害すると、細胞移動能の促進が確認されたことから、SGK1とカドミウム曝露によるEMTの惹起、ストレスファイバーの形成、Notch1シグナルとの間に関連性があるのではないかと考え、SGK1の機能阻害やNDRG1の機能阻害など検討したが、今のところ明確かつ論理的な解釈が可能な結果は得られていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に記載したSGK1の機能解析としては、なかなか困難な状況となっている。しかし、カドミウムに長期曝露されたA549細胞の特性の解析、またそこに関与するNotch1シグナルの解析、さらにNotch1シグナル周辺で機能する新たな因子の探索が順調に進んでいる。そのため、カドミウム曝露による癌悪性化メカニズムの解析という視点で見ると、概ね順調に進捗していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、解析が困難な状況にあるSGK1の機能解析を途中ではあるが停止させ、現在順調に進捗している実験について重点的に解析する。具体的には、カドミウムに長期曝露されたA549細胞の抗がん剤に対する感受性の検討、マトリゲルに対する浸潤能力の検討、カドミウム長期曝露を停止したときのA549細胞の質的変化、Notch1周辺で機能する因子の解析を行う予定である。また、カドミウムが影響を及ぼすと考えられている乳がん細胞(MCF7細胞)でもA549細胞と同様の現象が生じるか検討する予定である。加えて、これらの解析が終了次第、論文として投稿する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、実験の多少の変更に付随して、購入する適切な物品の選択に時間がかかったことなどから、計画よりも研究費使用時期が遅れている。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度以降は、先に提出した計画から大きな変更なく使用していく予定である。
|