研究課題
アルツハイマー病を含む認知機能障害の原因は不明な点が多く、その治療は対症療法が中心である。最近の研究から、糖・脂質代謝異常が、認知機能障害の危険因子であることが明らかになった。本研究では、我々が神経細胞の発達や脂質代謝に重要な役割を果たすことを見出したケトン体代謝酵素 (アセトアセチルCoA合成酵素, AACS) の神経機能における生理的意義や、ケトン体代謝異常と認知機能障害との関係を明らかにすることを目的とした。アルツハイマー病患者の脳においては、システインプロテアーゼであるレグマインが活性化し、それに伴うタウ切断の増加が神経原線維の病的変化を引き起こすことが明らかになっている。我々は、AACSの547番目のアスパラギンがレグマインによって切断され、ケトン体代謝活性が著しく低下することを明らかにした。そこで、CRISPR-Cas9システムを用いて、AACSのノックアウトマウスの作製を試みた。AACSの開始コドン付近を欠失したマウスを作製した結果、ヘテロ型マウスにおいてAACSのmRNAレベルは増加したが、タンパク質量は減少していた。そこで、脂質代謝に関わる遺伝子発現を検討した結果、コレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素や、脂肪酸合成酵素の発現は変化しなかった。また、神経機能に関わる遺伝子では、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの発現は変動しなかったが、ドパミンからノルエピネフリンを合成するドパミン-β-ヒドロキシラーゼの発現が、AACSの減少に伴い有意に減少した。本研究の結果から、AACSを介したケトン体代謝が、神経伝達物質の代謝において重要な役割を果たす可能性が示唆された。また、AACSの低下によるケトン体代謝異常が、認知機能などの脳機能に何らかの影響を及ぼす可能性が考えられる。
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