本研究は実験動物を使用した行動薬理試験に代わる、危険ドラッグをはじめとした乱用薬物の薬物依存性を迅速かつ簡便に評価可能な試験法の確立を目的としている。本研究のマイルストーンとして、平成27年度:①依存性薬物を曝露したヒト神経細胞から産生される薬物依存性バイオマーカー蛋白質候補をプロテオミクスにより探索し、これを依存性・毒性の有無が判明している化合物で絞り込むこと、および平成28年度:②薬物依存性バイオマーカー蛋白質に対する抗体セットを組み、保有するすべての化合物に対して網羅解析を実施することの2点を設定している。まず、ヒト神経細胞モデル(SHSY-5Yを分化誘導)にアンフェタミン類、カチノン類、トリプタミン類、およびカンナビノイド類を添加し、細胞死を誘導しない、最大濃度の薬物濃度条件を設定した。次に、上記条件で細胞培養した上清に含有される蛋白質をTCA-アセトン沈殿法により回収し、二次元電気泳動法で分離した。変動蛋白質スポットを切り出してトリプシン処理した後、MALDI-TOF-MS/MSにより蛋白質を同定した。その結果、特に期待する薬物依存性バイオマーカー候補分子としてLatexin(LTX)を見出した。LTXは前研究(平成25-26年度文部科学省 科学研究費助成事業 若手研究B 代表「覚せい剤類似化合物の構造と精神依存性・神経毒性の連関評価」)でも見出した細胞内蛋白質であり、乱用薬物を作用させることで細胞外にも放出されることが判明した。そこで、LTXの認識部位が異なる2種類の抗体を用いてサンドイッチELISA系を立ち上げ、アンフェタミン類、カチノン類、トリプタミン類、およびカンナビノイド類を添加・培養した上清中のLTX濃度を検討した。その結果、アンフェタミン類が最も培養液中にLTXを分泌させることが判明した。
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