研究課題/領域番号 |
15K18914
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
曽我 慶介 国立医薬品食品衛生研究所, 生化学部, 研究員 (50746336)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トリチウム / ポロニウム / 食品分析 / 放射能分析 / 食品衛生学 / 液体シンチレーション法 |
研究実績の概要 |
本研究では、食品に含まれる放射性物質について、α線またはβ線を主に放出する核種を分析する。本年度では、食品中の汚染実態または安全性や健康影響についての情報が乏しいβ線放出核種トリチウム(H-3)と天然のα線放出核種であるポロニウム(Po-210)の分析法の検討を行った。 H-3は非常にエネルギーの低いβ線を放出する核種であるため、測定法として液体シンチレーション法が最有力であり、液体シンチレーション測定器による測定条件・試料調製法の最適化を行った。分析対象は食品中自由水とし、トルエン共沸蒸留法によって食品から自由水を単離する前処理方法を検討した。食品混合試料を用いたH-3添加回収試験の結果より、本手法によりほとんどの食品中のH-3を良好な回収率で簡便に精度よく分析可能なことが示された。本手法を用いて、約40種類の流通食品を分析したところ全て検出限界値以下であった。 Po-210はα線放出核種であるため、分析はシリコン半導体検出器を用いたα線スペクトロメトリーにより行う。本年度は、食品試料分解法・化学分離法・分析試料調製法の各ステップについて検討を行った。Poは揮発性の元素で乾式分解法では大量損失が懸念されることから、試料分解は生試料を約50℃で乾燥した後、硝酸と過酸化水素水を使用した湿式分解またはμ波分解装置による分解を検討した。化学分離法はキレート抽出カラムクロマトグラフィー、試料調製法はステンレス板にPoを電着する手法を検討した。以上の検討により構築した手法を用いてNIST標準認証試料を分析し、分析値が認証範囲内であることを確認した。魚介、肉、野菜等を分析したところ、魚介類に比較的高濃度のPo-210が含まれている傾向がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
食品中トリチウム(H-3)分析法の検討では、液体シンチレーション法によって、共沸蒸留法により単離した食品中自由水に含まれるH-3のβ線を計測する手法が、ほとんどの食品種へ応用可能なことを示すことができた。また、本手法を用いて一般流通食品の分析も行うことができた。 食品中ポロニウム(Po-210)分析法の検討に関しては、H-3分析よりも試料前処理から測定終了までの時間を要することから、様々な食品種での検討を行うまでには至らなかったが、魚介類を中心とした試料では検討が進んでおり、流通食品分析ではPo-210を比較的高濃度で含む試料の傾向をつかむことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度に引き続き、食品中のポロニウム(Po-210)分析法の検討およびPo-210実態調査を行い、食品種や地域別の分布を総合的に解析する。H-3に関しては、分析した全ての流通食品でバックグラウンドレベルであったことから、現状の食品では食品種・地域別におけるH-3濃度差に基づく解析を行うことは困難と判断し、今後は分析を行うことは控える。H-3の代わりにPo-210の親核種で天然の放射性物質であるβ線放出核種の鉛(Pb-210)の食品中の分析法を検討し、さらにPo-210とPb-210の同時分析法の検討を行うことで被曝評価精度の高い手法の構築を目指す。また、Po-210の体内動態について、文献調査を行い、実験動物を用いた詳細な解析を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に購入予定であった物品費の支払いが次年度4月以降に及んだため、予定より多くの金額が持ち越された。また、当初予定では食品試料を大量に購入する予定であったが、検討に使用する試料量が少量で済んだこと、高温での酸処理によるガラス器具の劣化・破損が少なかったことから、結果的に消耗品費用の削減につながった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では、前年度未払い分に使用する。 当初の研究計画になかったが、ポロニウム(Po-210)の親核種でβ線を放出する放射性鉛(Pb-210)とPo-210同時分析法の検討にあてる予定でいる。Pb-210分析には回収率を求めるために質量分析を行う必要があり、その際に必要な標準溶液、試料容器、高純度の試薬等を購入する。
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