研究実績の概要 |
1)抗HLA抗体の測定:腎移植後1年におけるレシピエント血清ストック209症例を用いて抗HLA抗体の測定を行った。抗HLA抗体陽性は35例で、そのうち、ドナー特異的HLA抗体(DSA, Donor Specific HLA Antibody)は18例であった。移植前のPreformed DSAを持続的に保有していた患者が9例、移植後初めて産生・検出されるde novo抗体保有患者は9例だった。 2)全ドナー及びレシピエントHLA型のアリルレベル再タイピング:DSA検出技術の向上により、HLA-A,B,C,DR,DQ,DPに対するアリルレベルのDSA特異性まで検出できるようになってきた。また、腎移植の際のHLA型マッチングは血清学レベルかつHLA-A,B,DR座に対して行われ、十分な短期成績を得ている。一方で、長期成績に影響するとされるDSAは、血清レベルのタイピングでは判断できず、アリルレベルのHLAタイピンが必要となる。そこで当院の腎移植ドナー&レシピエント合わせて626症例(2016年3月時点)を対象にアリルレベル再タイピングを実施中である。全ローカスの再タイピングが完了しているのは298症例で、実施中が162症例、未着手が166症例である。 3)抗HLA抗体産生と免疫抑制剤TDMの関連性:腎移植後1年におけるレシピエント血清中の抗HLA抗体(de novo DSA)産生とタクロリムスTDMとの関連性を評価した。結果として、DSA陽性群において陰性群と比較して移植後3-6ヶ月のトラフ値CV%は有意に高く(p=0.035)、同様に3-12ヶ月のトラフ値の最低値がより低い群でDSA陽性症例が多い傾向が見られた。ROC解析より3-6ヶ月のCV値のカットオフ値を算出したところ21.1%であった。移植後3-6ヶ月の目標Tacトラフ値は5-8 ng/mLであることから、de novo DSA発現予防のためにTacトラフ値の変動幅を±1~1.5 ng/mL以内を目標とすることが必要と考えられた。また、移植後3-6ヶ月のトラフ値の最低ラインは3.5ng/mL以上が目安と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
①腎移植の場合、術後どんなに時節が経過してもDSA抗体獲得リスクが完全に消失することはない。それゆえ、移植後1年だけでなく、3,5,10,20年と経過する過程において定期的な抗HLA抗体(de novo DSA)産生状況を明らかにする必要がある。すでに腎移植後3-5年及び7-10年後の血清のストックを継続的に進めており、その血清を用いて抗HLA抗体産生を明らかにし、さらに拒絶応答及びグラフト生着への影響について明らかにする。 ②生体腎移植ドナー及びレシピエントのHLA遺伝子タイピングをアリルレベル(アミノ酸レベルで区別されるHLA型)で実施するのは、HLA抗体検査の結果得られる抗原特異性が真にDSAかどうかを判定するために不可欠である。過去に遡って残りすべての患者のリタイピングを行う。 ③現在の腎移植医療において使用される免疫抑制剤には、タクロリムス以外にもミコフェノール酸とエベロリムスなどがある。これらの免疫抑制剤の使用量及びTDMデータと抗HLA抗体(de novo DSA)産生との関連性を明らかにする。また、免疫抑制剤以外のあらゆるファクターを用いた多変量解析を実施し、関連因子と各因子の寄与を明らかにする。 ④抗HLA抗体測定によるDSA評価は、抗体関連拒絶の診断基準のひとつであり、現在最も使用される判定基準Banff分類に明記されている。しかしながら、腎移植のみならず、すべての移植医療において移植後の抗HLA抗体測定は保険上認められていない。早期から定期的な抗HLA抗体測定が可能となるようなエビデンス作りと、多施設共同研究を進めるための足がかりとなるような検討・解析につなげていく。
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