本研究では、自然免疫系の1つである補体の活性化を利用して抗原を脾臓辺縁帯B 細胞(MZ-B)に送達し、長期に及ぶ抗腫瘍免疫の誘導を試みる。本提案は、抗原送達キャリアであるリポソームとMZ-Bとの相互作用に補体/補体受容体が関与するという研究代表者による発見に基づく。前年度の研究から、従来使用されてきたメトキシ末端ポリエチレングリコール(PEG)修飾リポソームではなく、ヒドロキシ末端PEG修飾リポソームを用いることで、補体を効率的に活性化し、in vitroにおいてMZ-Bに効率的に取り込まれることを明らかにした。しかし、in vivoにおける取り込みは十分ではなかった。当該年度は、in vivoにおけるMZ-Bへの抗原送達効率の向上とそれに伴う抗腫瘍免疫誘導効果について検討を行った。 まずPEGの修飾密度について検討した。PEG修飾密度を5%から2%に変更することにより、in vivoにおけるMZ-Bのリポソーム取り込み量が有意に増加した。また2%メトキシ末端PEG修飾リポソームよりも、2%ヒドロキシ末端PEG修飾リポソームの方が、MZ-Bに多量に取り込まれた。続いて粒子径の影響について検討した。粒子径を100 nmから400 nmに変更することにより、脾臓移行量は増大したがMZ-Bによる取り込み量に変化は見られなかった。最後に、これらのリポソームに抗原およびアジュバントを封入し、細胞傷害性T細胞の誘導を評価したところ、2%のヒドロキシ末端PEG修飾リポソームが最も高い誘導能を示した。 以上のように、補体を効率的に活性化できる2%のヒドロキシ末端PEG修飾リポソームは、抗原をMZ-Bへと効率的に送達でき、抗原特異的細胞傷害性T細胞を増強できることが明らかになった。がん抗原を搭載した本キャリアは、MZ-Bを標的とした新規がんワクチンとして機能することが示唆された。
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