オキサリプラチン(L-OHP)は大腸がん治療において頻用されるが、副作用である末梢神経障害は患者のQuality of Lifeを低下させる。特に慢性症状である蓄積性の末梢神経障害は、薬剤中止後も長期間にわたり継続するため問題視されている。L-OHPの蓄積性の末梢神経障害は、後根神経節細胞(DRG)にL-OHPが蓄積し、細胞の代謝や軸索原形輸送が障害されることにより生じる。また近年、DRGへのL-OHPの取り込みには、有機カチオントランスポーター(OCT)が関与することが報告された。そこで本研究では、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬デュロキセチン(DLX)を、L-OHPと併用することで、OCTを介したL-OHPのDRGへの取り込みを防ぎ、蓄積性の末梢神経障害の発症を予防することを目的とする。 一過性にヒト(h)およびラット(r)OCT1、OCT2、OCT3を発現させたHEK293細胞を種々の濃度のDLXとL-OHP混合液で処置した。細胞毒性の指標である培養液中の乳酸脱水素酵素の量を測定し50%阻害濃度を算出したところ、rOCT1で1.1μM、rOCT2で1.9μM、rOCT3で28.1μM、hOCT1で1.9uM、hOCT2で5.4μM、hOCT3で1.8μMだった。また、アポトーシスの指標である培養液中のカスパーゼ量もDLXを共存下で減少していた。さらに、L-OHPとDLXを同時処置した後の細胞内白金蓄積量をICP-MSで定量した結果、rOCT1、rOCT2、hOCT2でL-OHPの取り込みが阻害されたことが判明した。また、DLX前処理後のL-OHP処置ではrOCT3以外のOCTでL-OHPの取り込みが阻害されていた。 今回の検討により、DRGへのL-OHPの蓄積抑制と、DLXによるL-OHPの末梢神経障害抑制効果の関連性が示唆された。
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