研究実績の概要 |
我々は、ヒト膵癌細胞に対するゲムシタビンとmTOR阻害剤の併用はそれぞれの単独処理時と比較して相乗的に殺細胞効果を増強することを観察している。そこで本研究では、ヒト膵癌細胞を対象にしてゲムシタビンとmTOR阻害剤の併用増強効果のメカニズムについて核酸やゲムシタビンの関連代謝系に着目して明らかにしていくと共にゲムシタビン不応性の膵癌細胞における併用の有用性について明らかにすることを目的とした。本年度の研究では以下のことを明らかにした。 (1)ヒト膵癌細胞においてゲムシタビンの殺細胞効果を相乗的に増強したmTOR阻害剤であるラパマイシン、エベロリムス及びAZD8055を用いて核酸代謝に関連するタンパク質の発現や活性化について検討を行った。3種のmTOR阻害剤は核酸代謝酵素であるカルバモイルリン酸合成酵素-2,アスパラギン酸カルバモイル転移酵素,オルニチン脱水素酵素 (CAD)のリン酸化を阻害した。さらに、ゲムシタビンの代謝に関与するシチジンデアミナーゼ(CDA)の発現を有意に抑制した。 (2)ヒト膵癌細胞におけるゲムシタビンの殺細胞効果にCDAが影響を及ぼすか否か検討した。CDAの発現抑制によってゲムシタビンの殺細胞効果が増強された。 (3)ヒト膵癌細胞株にゲムシタビンを暴露することにより樹立された耐性株を用いてゲムシタビンとmTOR阻害剤の併用効果について検討を行った。ゲムシタビン耐性株に対するゲムシタビンの殺細胞効果はmTOR阻害剤により増強された。 以上の結果より、ヒト膵癌細胞におけるmTOR阻害剤によるゲムシタビンの殺細胞効果の増強効果はCDAの発現抑制を介して誘導されることが示唆された。さらに、mTOR阻害剤とゲムシタビンの併用はゲムシタビン耐性細胞においても有効であると考えられた。
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