研究課題
膵癌で用いられている核酸拮抗性抗がん剤のゲムシタビンの治療効果は十分なものではなく、多くの分子標的薬との併用が検討されてきており、我々は前年度までに (1) ヒト膵癌細胞株及び樹立したゲムシタビン耐性株におけるmTOR阻害剤とゲムシタビンとの併用による相乗的な殺細胞効果の増強、(2)mTOR阻害剤によるゲムシタビンの代謝に関わる代謝酵素であるカルバモイルリン酸合成酵素-2,アスパラギン酸カルバモイル転移酵素、オルニチン脱水素酵素(CAD)のリン酸化阻害及びシチジンデアミナーゼ(CDA)の発現抑制、(3) CDA発現抑制によるゲムシタビンの効果の増強を観察している。そこで本年度の研究ではこれらの知見に基づき以下のことを明らかにした。まず、CDAの発現抑制メカニズムを検討するためにmTOR阻害剤によるCDAプロモーター活性阻害効果の検討を行った。その結果、mTOR阻害剤によるCDAプロモーター活性阻害効果は観察されなかった。mTOR阻害剤によるCDAの転写活性の抑制がみられなかったことから、次にmTOR阻害剤によるCDA mRNAの安定性について検討したところ、mTOR阻害剤処理によってCDA mRNAの分解が促進された。そこで、CDAのmRNA分解に関与することが報告されているmiR-484の発現を検討したところ、mTOR阻害剤によってmiR-484の発現は変化しなかった。以上のことからヒト膵癌細胞におけるmTOR阻害剤はCDAのmRNA分解促進による発現低下を介してゲムシタビンの不活化を阻害することによってゲムシタビンの殺細胞効果を増強することが示唆され、ヒト膵癌に対してゲムシタビンとmTOR阻害薬併用が有効である可能性を示した。
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