抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬であるダプトマイシンならびにリネゾリドは、有効治療濃度域や腎機能低下時、低アルブミン血症時の薬物動態については未解明であることから、治療薬物モニタリング(TDM)の有用性については一定の見解が得られていない。本研究は、ダプトマイシンならびにリネゾリドにおける有効性と安全性を確保するための至適血中濃度域を明らかにすること、さらに得られた薬物動態パラメータに基づく抗MRSA薬の個別化投与法を確立することを目的とした。 全研究期間(2015-2018年)における研究対象症例は、ダプトマイシン60例(143検体)、リネゾリド5例(13検体)であった。最終年度は、血液透析患者等を除外したダプトマイシン47例(110検体)を対象として母集団薬物動態モデルを構築した。さらに、構築したモデルを用いたシミュレーション解析により、添付文書用量および高用量におけるトラフ値 <24.3μg/mLの達成割合およびAUC値に基づいた至適投与量を推定した。 母集団薬物動態解析の結果、ダプトマイシンクリアランスに影響する因子として腎機能が同定された。一方、体重、性別、血清アルブミン値は有意な影響因子として最終モデルには組み込まれなかった。シミュレーション解析の結果、添付文書用量では腎機能に寄らずトラフ値が24.3μg/mLを上回るリスクは低いことが示された。一方、高用量投与の場合、過剰投与を回避するためには腎機能中程度低下患者では2-3割の減量、および腎機能重度低下患者では隔日投与への減量が推奨されることが示唆された。
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