本研究の目的は、新規作用機序を有する肺がん幹細胞選択的抗がん剤を構築することである。細胞死の一種であるオートファジーは、近年、腫瘍細胞の発生・進展との関与が徐々に明らかとなってきており、抗がん剤の新規ターゲットとして注目されている。本年度は、これまでの検討において良好な吸入特性を有する脂質組成からなるリポソームに各種オートファジー誘導剤または阻害剤を封入し、細胞障害活性、細胞内取り込み、オートファジー誘導能およびラットへ経肺投与後の肺内動態を観察した。オートファジー誘導剤として二クロスアミド、ラパマイシン、オートファジー阻害剤として3-メチルアデニン、ウォルトマンニンを選択した。葉酸を 0.3 mol% 修飾した葉酸修飾リポソームに各種薬物を内封し、葉酸レセプター (FR) 高発現細胞および低発現細胞を用いて抗腫瘍活性を評価した。その結果、いずれの薬物を用いた場合においても、FR低発現細胞では、未修飾リポソームと同等の抗腫瘍活性を示したのに対し、FR 高発現細胞では他のサンプル群と比較して有意に高い抗腫瘍活性を示した。次に、その高い抗腫瘍活性が FR を介した細胞内取り込みによるものか否かを検討するため、細胞内取り込みを評価したところ、葉酸修飾リポソームは、薬物単独または未修飾リポソームと比較して高い細胞内取り込みを示し、さらに FR 競合阻害剤である葉酸を添加することでその取り込みは抑制された。また、オートファジー誘導剤封入リポソームでは、薬物単独投与と比較してオートファジー誘導能を向上させることが明らかとなった。これらの結果から、葉酸修飾リポソームは、FR を介して細胞内に積極的に取り込まれることで、オートファジー誘導による抗腫瘍活性を示したものと考えられる。最後に、ラットに経肺投与後の肺内動態を観察したところ、未修飾リポソームと比較して若干の滞留性の向上が観察された。
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