研究実績の概要 |
マーモセットP450 2C8, 2C18, 2C19, 2C58, および2C76のmRNAは、調べた5組織(脳、肺、肝臓、腎臓および小腸)のうち、いずれも薬物代謝に重要である肝臓で高い発現を示し、ヒトP450 2C分子種の発現分布とよく似た特徴を示した。5種のマーモセットP450 2C分子種は対応するヒトP450 2C分子種に対してアミノ酸レベルで86%以上の高い相同性を示し、その組換え酵素は典型的なヒトP450 2C指標活性を示した。特にマーモセットP450 2C19はワルファリン、トルブタミド、フルルビプロフェンおよびオメプラゾールなどの多くのヒトP450 2C9/19基質を効率よく代謝した。代表的なキラル薬物であるワルファリンの肝P450による酸化的代謝はヒトとカニクイザルで種差が認められているが、マーモセットはP450 2C19を介してS体選択的であり、その立体選択性にヒトとよく似た特徴が認められた。in vivo投与実験でS-ワルファリンの血中消失が遅かったマーモセット個体のP450 2C19遺伝子配列を調べたところ、3つの非同義置換変異(Phe7Leu, Ser254Leu, Ile469Thr)を見出した。Ser254Leuを持つP450 2C19組換え酵素は野生型P450 2C19と比較して著しくワルファリン7-水酸化活性が低下することからSer254LeuはマーモセットのP450 2C依存的な薬物代謝の個体差の一因となっていることが推察された。加えて、マーモセットP450 1A1,1A2, 1B1, 2A6, 2D6, 2D8, 2J2, 3A4, 3A5, 3A90についてもヒトP450との酵素学的性質の相同性および相違性を明らかにした。これらの知見はマーモセットを用いて創薬研究を行う際の基盤情報となる。
|
今後の研究の推進方策 |
マーモセット組換えP450 2C 酵素を用いた薬物代謝能の評価について、これまで少数の典型的なヒトP450 2C基質を中心に解析を進めてきたが、P450 2C19以外のP450 2C8, 2C18, 2C58および2C76については解析が不十分である。さらに多く薬物を用いて詳細な機能解析を行い、マーモセットP450 2C酵素の基質特異性を明らかにする。 マーモセットP450 2C 分子種の誘導能の評価については未実施であるが、市販のマーモセット凍結肝細胞を2ロット確保できたのでヒト凍結肝細胞による酵素誘導の十分な情報がある典型的なヒトP450 阻害剤に対する応答性を明らかにする。 マーモセットP450 2C 遺伝子多型解析については現在P450 2C19のみ実施した。P450 2C19以外のP450 2C分子種についても、組換えP450酵素を用いた機能解析により種差あるいは個体差に重要であると考えられた場合、遺伝子多型解析を実施する。
|