現在、上市されている真菌症ワクチンは存在しない。真菌の多くは粘膜面を感染の場あるいは感染経路とすることから、粘膜ワクチンシステムが最適だと考えられる。しかしながら、粘膜面は本質的に免疫応答を誘導しがたいため、真菌抗原に対する粘膜免疫応答を効果的に誘導可能な方法論に乏しいという技術的障壁が存在している。最近当教室では、ある種の正電荷リポソームが粘膜樹状細胞への抗原送達とそれ自体の粘膜アジュバント活性によって粘膜ワクチンシステムとして利用可能なことを見いだした。そこで申請者は、粘膜アジュバント活性を有するリポソームと真菌蛋白質抗原の経鼻投与により、深在性真菌症への応用が可能な経鼻投与型の新規ワクチンシステム開発を着想した。 初めに取り組んだCandida albicansあるいはAspergillus fumigatus由来抗原ライブラリーの大腸菌発現系の構築に予想以上に時間がかかったため、スクリーニングにより可溶性蛋白質の大量精製が容易であったSap2p (Candida albicans)およびAspf3p (Aspergillus fumigatus)の2つの抗原を用いて検討を進めた。 その結果、これら抗原をDOTAP/DC-cholリポソームと共にBALB/c雌性マウスへ経鼻投与を行ったところ、両抗原に対する特異的な粘膜洗浄液(鼻腔、肺胞および膣)中IgAおよび血清IgG、IgG1、IgG2aの顕著な産生亢進が見られた。さらに免疫スケジュールおよび投与量の最適化も完了した。また、免疫マウスより調製した細胞のin vitro抗原2次刺激による各種サイトカイン産生を検討したところ、抗原刺激特異的に真菌感染防御に重要であることが知られているIL-17A産生も亢進することを見いだした。
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