研究課題/領域番号 |
15K18937
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
河渕 真治 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (70747237)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 母集団薬物動態解析 / 個別化医療 / 抗がん剤 / 5-フルオロウラシル / 日内変動 |
研究実績の概要 |
大腸がん化学療法のkey drugである5-FUに関して、血漿中5-FU濃度に基づくがん化学療法の個別化ならびに臨床で実施可能な技術を確立することを目的として、今年度は当初の計画に従ってラットを用いた基礎検討を行い、以下の研究成果が得られた。 1. 5-FUの母集団薬物動態モデル解析を行い、コサイナー法という統計学的手法を用いてラット血漿中5-FU濃度の日内変動リズムを記述できるモデルの構築に成功した。また、今回構築した薬物動態モデルを用いることで、5-FUを持続点滴投与した際の定常状態における血漿中5-FU濃度の日内変動をシミュレートすることが可能であった。したがって、本モデルは、患者個々の血漿中5-FU濃度の日内変動を考慮した投与方法や、血漿中5-FU濃度を評価するための採血ポイントのタイミングを推定するために有用であることが示唆された。 2. 5-FU投与後の毒性発現として骨髄抑制に着目し、赤血球、白血球、好中球およびリンパ球について血球数をマーカーに検討を行った結果、5-FUの投与時刻によって、骨髄抑制の重篤度に違いが認められた。このことから、血漿中5-FU濃度の日内変動リズムが毒性発現やその重篤度に影響を与えうることが考えられた。 3. 大腸がんに対する標準的なレジメンであるFOLFIRI療法やmFOLFOX6療法における5-FUの先行急速静脈内投与と、5-FUの持続点滴投与後の血漿中濃度推移との関係に関して基礎的検討を行った。その結果、5-FUの先行急速静脈内投与は、その投与量に比例して、5-FUの主な代謝酵素であるDPDの活性を抑制した。このDPDの活性抑制は、5-FUの持続点滴投与後の血漿中濃度の半減期延長に寄与していると考えられ、投与設計を個別化する際に考慮すべき点であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの研究進捗状況は、ほぼ計画通り遂行している。本年度の研究計画であったラット血漿中5-FU濃度の個体間変動・日内変動の解明について検討し、これらを解析可能な母集団モデルの構築に成功した。また、2年目以降の研究計画であった血漿中5-FU濃度の変動に影響を及ぼしうる因子の解明についても検討を開始している。さらに、食道がん化学放射線療法を受けた患者の血漿中5-FU濃度の母集団解析については、血漿中5-FU濃度の個体間変動の程度やこれらの変動因子について把握し、母集団モデルに考慮すべき点について把握することができた。血漿中5-FU濃度変動と治療期間中の重篤な副作用発現・治療効果との関係について把握することが次年度の目標である。本年度に得られた成果は、国内学会発表では、第32回日本TDM学会・学術大会、日本薬物動態学会第30回年会、第25回日本医療薬学会年会、第36回日本臨床薬理学会学術総会にて発表を行った。海外学会発表では、14th International Congress of Therapeutic Drug Monitoring & Clinical Toxicologyにて発表を行った。また原著英論文としては、1報がすでに掲載済みである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で得られたラット血漿中5-FU濃度の個体間変動・日内変動に関する知見をもとに、今後は当初の計画通り、5-FU投与後の骨髄抑制の発現・治療効果についての個体間変動・日内変動について検討を進めていく。また、既に検討を開始している血漿中5-FU濃度の変動に影響を及ぼしうる因子の解明についても、引き続き検討を進めていく。さらに、5-FUのプロドラッグであるカペシタビンやUFTについても同様に、投与後の血漿中5-FU濃度について母集団薬物動態解析を行い、個体間変動・日内変動を解析可能なモデル構築を行う。これらの基礎研究で得られた知見を礎に、食道がん化学放射線療法を受けた患者の血漿中5-FU濃度の母集団解析を進め、治療成績との薬物の血漿中濃度変動との関係を明らかにし、がん化学療法の個別化を可能とする技術の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
予備検討の段階で当初の計画よりも良好な結果が得られ、実験動物と実験用試薬の使用数を削減できたため、当初計画していた物品費が予定以下であった。そのため、物品費支出予定の一部を、海外学会発表に係わる旅費および論文投稿と学会発表に係わるその他に充てたが、数千円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は、次年度の研究費に充てる。具体的に、次年度の研究計画のうち物品費として、実験動物と分析用試薬が必要になるため、これらに使用する予定である。
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