糖尿病患者では、癌の罹患率が高く、死亡率も高いことが知られている。その原因として癌化学療法による有効性や安全性が低い可能性が考えられるが、その詳細は十分明らかにされていないのが現状である。そこで、本研究では、患者を対象とした実態調査と、細胞や動物を用いた基礎的な検討から、糖尿病における癌化学療法の有効性や安全性について評価することとした。 対象がん種は糖尿病で罹患率および死亡率ともに高い大腸癌とし、対象レジメンは大腸癌で頻用されるFOLFOX(オキサリプラチン・フルオロウラシル)とした。患者を対象とした実態調査では、昨年度から引き続きFOLFOXを含む化学療法を施行された大腸癌患者を対象として、電子カルテを用いて後方視的に調査を行い、糖尿病を基礎に持つ患者と持たない患者で各項目を比較した。十分な例数を集めることができなかったものの、糖尿病を基礎に持たない患者と比較して、糖尿病を基礎に持つ患者では、FOLFOXによる治療を行っても期待した効果が十分に得られない可能性があるが、その他の治療法が奏功する可能性が示唆された。動物を用いた検討でも、高血糖モデルマウスにおいてFOLFOXによる抗腫瘍効果や生存期間の延長がほとんど見られなかった。高血糖モデルマウスにおける死因の検討も行った。以上より、糖尿病では、効果が見られるレジメンもあると考えられるが、FOLFOXによる十分な治療効果を得ることができない可能性が示唆された。
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