研究課題/領域番号 |
15K18942
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研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
細川 美香 神戸薬科大学, 薬学部, 助教 (70548271)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | デシタビン / DNAメチル基転移酵素阻害薬 / 大腸がん / 獲得耐性 / 自然耐性 / deoxycytidine kinase |
研究実績の概要 |
ヒト大腸がん細胞を用いて、DNAメチル基転移酵素阻害薬デシタビン(DAC)に対する獲得耐性と自然耐性の機構を比較するために、体内動態制御因子に焦点を当て検討を行った。獲得耐性細胞としてHCT116細胞にDACを長期処置したDAC耐性HCT116細胞、自然耐性細胞としてHT29細胞を用いた。DACへの耐性はHCT116細胞と比較して、DAC耐性HCT116細胞では約100倍高く、HT29細胞では約160倍高かった。 DAC耐性HCT116細胞では、タンパク発現においてDACの活性化酵素deoxycytidine kinase(dCK)の低下、不活性化酵素cytidine deaminase(CDA)の増大が認められた。これら酵素のsiRNA処置の影響を検討した結果、CDA siRNAと比較してdCK siRNAにおいてDACへの耐性やDNAメチル化により制御を受ける遺伝子のmRNA発現に顕著な変化が認められた。さらにDAC耐性HCT116細胞でのみ、dCKにはアミノ酸置換を伴う変異が1か所認められた。またDAC耐性HCT116細胞では、dCK及びCDAを共通に制御する5種のmiRNAの発現変動が認められた。DACと同様にdCK及びCDAの基質となるゲムシタビンへの耐性は、DAC耐性HCT116細胞ではHCT116細胞と比べて約30倍上昇した。しかし、DAC耐性HCT116細胞は、DACやゲムシタビン以外の他の抗がん剤に交差耐性を示さなかった。一方HT29細胞では、DAC耐性HCT116細胞と異なりdCKやCDAの関与は小さかった。 HCT116細胞のDACへの獲得耐性とHT29細胞のDACへの自然耐性は、機構が異なることが示唆された。今後これらの機構の差異を詳細に明らかにすることで、有効な併用療法や効果の個体差の情報提供に繋がるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は、HCT116細胞以外の大腸がん細胞であるSW48細胞を用いてDAC獲得耐性細胞の作製を試みたが、耐性化しなかった。現在、他の大腸がん細胞SW620細胞において作成を試みている。一方、耐性化メカニズムの検討を、獲得耐性細胞としてHCT116細胞にDACを長期処置したDAC耐性HCT116細胞、自然耐性細胞としてHT29細胞を用いて行った。HCT116細胞のDACへの獲得耐性に関与すると考えられたDAC活性化酵素dCKの活性について、HPLCによる測定に着手しているが時間を要しているため、やや遅れている。HT29細胞のDACへの自然耐性は、HCT116細胞のDACへの獲得耐性とは異なる機構の存在が示唆されたため、mRNA発現のマイクロアレイ解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
HCT116細胞以外のDAC獲得耐性細胞の作製を、SW620細胞を用いて行う。DAC耐性化SW620細胞が作製できれば、HCT116細胞と同様の方法でDACの代謝酵素を中心とした耐性化因子について検討を行う。 DACの代謝酵素の活性測定は、これまでDACの代謝物が入手できなかったため、同じ酵素の基質となるゲムシタビンを用いて行っていた。引き続き、ゲムシタビンを用いてDACの代謝酵素活性のHPLCによる測定を行う。不活性化酵素CDAの活性測定は出来ているが、活性化酵素dCKの活性測定についてはカラムや移動相などの測定条件を変更して改善を図る。さらに、2つの酵素活性の同時測定を目指す。最近、DACのdCKによる代謝物(モノリン酸化体)を入手出来たため、DACを基質とした時のdCK活性も検討する。なお、DACは水溶液中で不安定なため保存温度による安定性の違いを確認し、分解による影響を出来るだけ最小限にして測定を行うようにする。 HCT116細胞のDACへの獲得耐性とHT29細胞のDACへの自然耐性の機構の差異について明らかにするために、マイクロアレイのデータ解析を行う。具体的には、変動遺伝子の抽出、クラスタリング解析、GO解析、Pathway解析、Network解析を行う。これらの解析から重要と考えられる遺伝子について、実際にmRNA発現を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたが、181円とごくわずかであった。このため、ほぼ予定通りに使用できたと考えられる。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、SW620細胞による獲得耐性細胞の樹立において、細胞培養及び、PCR、Western blot等の分子生物学的解析に使用する。また、HPLCによるdCKやCDAの酵素活性の測定に関わる試薬に用いる。マイクロアレイ解析では、主にWeb上の無償のサービスを活用するため解析自体はあまり費用を要さないが、解析後の確認として行うPCRに研究費を費やす。
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