エピジェネティック修飾薬のDNAメチル基転移酵素阻害薬デシタビン(DAC)は、承認後の臨床使用期間が短くDACへの耐性化の情報も少ない。固形がんでは特に情報が少ないため、ヒト大腸がん細胞を用いてDACへの獲得耐性及び自然耐性の機構について薬物動態因子に焦点を当て明らかにすることを目的とし以下の知見を得た。 DAC処置により耐性を獲得させたDAC耐性HCT116細胞は、DACの活性化酵素deoxycytidine kinase(dCK)の発現及び酵素活性が低下していた。他の大腸がんであるSW620細胞でもDACへの獲得耐性細胞を作製したところ、同様にdCKの発現低下が認められた。両細胞共に大腸がんに使用される抗がん薬に対して交差耐性を示さなかった。一方、HT29細胞では、DAC耐性HCT116及びSW620細胞と異なりdCKの関与は小さかった。HCT116及びSW620細胞のDACへの獲得耐性にはdCKの関与が明らかとなったが、HT29細胞のDACへの自然耐性には他の機構の存在が示唆された。 マイクロアレイ解析において、DAC耐性HCT116細胞とHT29細胞では遺伝子発現プロファイルが異なっていた。Network解析により、HT29細胞ではP450による異物代謝や脂質代謝、WNT signaling経路の亢進が認められた。HT29細胞のようにSMAD4遺伝子の欠損、p53及びAPC遺伝子の変異がある細胞は、BMP signaling経路の亢進を介しWNT signaling経路の亢進が起きることが示唆されており、HT29細胞はBMP4発現が増大していた。PrognoScan解析において、BMP4は大腸がん患者の予後不良因子となる可能性が見出された。今後これらの機構を詳細に検討し、耐性克服のための有効な併用療法や効果の個体差について明らかにできるように研究を進める予定である。
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