研究課題/領域番号 |
15K18947
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
小森 理絵 徳島文理大学, 薬学部, 助教 (70412400)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 症候性てんかん / てんかん原性 / 脳内炎症 / レベチラセタム / CAGE |
研究実績の概要 |
ピロカルピン投与症候性てんかん発症モデル(PILO-SE)マウスの海馬を使用し、てんかん発症の潜伏期間(てんかん原性)の脳内変化について研究を進めた。Cap Analysis of Gene Expression(CAGE)法を用いた網羅的遺伝子発現解析から、SE後に誘導されるFosl1(Fra1)発現が、新規抗てんかん薬レベチラセタム(LEV)投与により抑制されることが分かった。Fosl1はAP-1構成因子の一つであり、JUNファミリータンパク質と二量体を形成し、転写因子として機能する。昨年度、マウスミクログリア細胞株BV2を用いた研究から、LPS刺激後の炎症反応がLEV投与により抑制されること、この過程にFosl1が関与していることが明らかになり、Fosl1がLEVの新規ターゲットとして同定された。このことから、今年度はてんかん原性におけるFosl1発現の制御を中心に研究を進めた。PILO-SEマウスでのFosl1発現を経時的に調べたところ、同じくFosファミリーに属し最初期遺伝子としてよく知られるFosとは全く異なる発現様式を示すことが分かった。また、Fosl1発現細胞を同定するため、セルソーターFACSAria IIを用い、海馬からミクログリア、アストロサイト、神経細胞、血管内皮細胞を分取し、それぞれにおけるFosl1の発現変動を調べた。in vitro実験系においてLEVはFosl1を介してミクログリア活性化を抑制することが示されているが、てんかん原性期の海馬においてはミクログリアではほとんどFosl1発現が認められず、アストロサイトに局在していることが分かった。この発現誘導はLEV投与により抑制される傾向がみられた。これらのことから、Fosl1はグリア細胞の中でも特にアストロサイトの反応性について調節し、LEVによる炎症抑制に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
てんかん原性の初期における遺伝子発現変動を網羅的に調べた結果、これまでの研究で明らかにされてきた様々な脳内変化に対応する遺伝子群が誘導されていること、また、LEV投与によりこれらの遺伝子が抑制されることが明らかとなった。脳障害後のLEV投与には、後に発症するてんかんを予防する効果が期待されており、その作用機序を明らかにすることは重要である。今回、計画していたSE後の海馬におけるFosl1の挙動を調べ、発現している海馬内の細胞を同定しアストロサイトとの関連を示したことで、その一端を明らかにできたのではないかと考える。これまでの成果をまとめ、現在論文投稿準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
1.Fosl1の発現がみられたアストロサイトについてさらに詳細な解析を行う。海馬全体でみられた様々な炎症、血管新生、血液脳関門関連遺伝子が、アストロサイト、及び他の脳内細胞においてどのように変化しているのかを調べ、LEV投与による影響があるかどうかを明らかにする。
2.本研究で既に実施したCAGE解析により、Fosl1制御に関わる上流因子の解析も可能である。てんかん原性初期の脳内変化とLEV投与効果をより明確にするため、更に上流にさかのぼった解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)データ解析を主に進めたこと、及び使用した試薬等の消耗品が他の研究で使用している消耗品と共通のものが多く、物品購入費が予定より少なく抑えられたため。
(使用計画)解析を行うためのマウス購入・飼育費、脳細胞の分取と遺伝子発現解析をはじめとした分子生物学的解析に必要な抗体・酵素等、消耗品購入、及び論文投稿費、学会発表にかかる経費に充てる予定である。
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