研究課題
粘膜ワクチンは全身・粘膜免疫の双方を誘導可能であるため感染症ワクチンとして理想的な効果が期待できる。申請者はこれまでにclaudin-4結合分子であるウエルシュ菌毒素C末断片 (C-CPE)をワクチンデリバリー担体として用い、鼻腔上皮細胞に高発現するclaudin-4を標的としたワクチンデリバリー技術を独自に開発している。本研究ではC-CPEを用いたワクチンデリバリーを基盤とし、これまで関連性が推測されていたものの精査されてこなかった繊毛や粘液といった鼻腔物理的バリアが経鼻ワクチンの免疫誘導に与える影響に着目し、研究を行った。繊毛運動異常に伴う粘液の貯留が認められるTtll1欠損マウスに肺炎球菌ワクチン抗原であるPspAとC-CPEとの融合タンパク質 (PspA-C-CPE)を経鼻投与し、免疫誘導を検証した。その結果、Ttll1欠損マウスではPspA特異的な全身免疫の誘導は認められた。しかしながら、PspA特異的な鼻腔での粘膜免疫誘導の低下が認められ、鼻腔物理的バリアが経鼻ワクチンの粘膜免疫誘導を阻害することが明らかになった。次に、鼻腔での粘膜免疫誘導の中核的な組織であるNALTの各種リンパ球をフローサイトメーターを用いて測定することで粘膜免疫誘導低下のメカニズムを検証した。その結果、Ttll1欠損マウスでは抗体のクラススイッチや親和性成熟の場となっている胚中心におけるB細胞の誘導低下が認められた。さらに、胚中心形成に重要なサブセットとして同定されている濾胞ヘルパーT細胞に関しても胚中心B細胞の結果と相関するように誘導低下が認められていた。また、組織学的な観点からNALTでの胚中心形成を検証したところ、胚中心の形成不全が認められた。これらの結果からも、鼻腔物理的バリアの異常が認められる場合、胚中心での免疫応答不全に伴う粘膜免疫誘導の低下が生じることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
初年度では主に申請者グループが独自に進めている鼻腔上皮に発現するclaudin-4の結合分子であるC-CPEを用いた経鼻ワクチンデリバリーを基盤とし、繊毛運動異常や粘液の貯留といった過剰な鼻腔物理的バリアが経鼻ワクチンの粘膜免疫誘導を阻害することを明らかとしたため、おおむね順調に進展していると考えられる。
初年度では繊毛運動不全や粘液の貯留といった鼻腔物理的バリアの異常が認められる場合、経鼻ワクチンを投与しても鼻腔での胚中心形成不全に伴う粘膜免疫誘導低下を招くことを明らかとした。本年度ではN-アセチルシステインなどの粘液除去剤を用い、繊毛機能のみが不全となった状況を構築し、経鼻ワクチンによる免疫誘導を解析する。さらに、初年度の結果を踏まえ、鼻腔物理的バリアの異常と免疫誘導低下に関してその原因を詳細に解析する。免疫誘導低下の原因に関してはTtll1欠損によりC-CPEの標的分子であるclaudin-4の発現が変動することや粘液の影響によりC-CPEのNALT上皮細胞への結合性が変化することなどが考えられる。これらに関して免疫学的、組織学的な手法を用いることで経鼻ワクチンにおける鼻腔物理的バリアの影響を詳細に精査する。本研究を介して優れた経鼻ワクチンデリバリーおよび適切な投与に関する重要な知見を得ていく予定である。
初年度では国際学会においてその成果を発表する予定であったが、国内学会での発表で多方面より粘液除去により経鼻ワクチンに対する影響がどのように変化するのかといったご意見を頂いた。これをもとに現在では粘液除去の検討を行っており、この結果を含めた形で国際学会で発表することとしたため未使用額が生じた。
このため、本年度行われる国際学会に参加し、その成果発表を行うために未使用額を充てることを予定している。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (3件)
PLoS ONE
巻: 10 ページ: e0126352
10.1371/journal.pone.0126352
巻: 10 ページ: e0127460
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