本研究計画の1年目は、GnRH受容体の持続的刺激を受けたラット下垂体前葉の性腺刺激ホルモン(LH/FSH)産生細胞で一過性に出現する、細管状小胞体の高密度な集積構造物(ER patch)に対する検討を主に実施した。その結果ER patchにBiPやカルネキシンなどの小胞体ストレス関連蛋白質に加え、HRD1やBap31など、ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)と関係の強い小胞体関連分解機能分子が集積することを見出し、ER patchが細胞内分解系と関わる可能性を示した。またER patchが出現したLH/FSH産生細胞でLC3の局在変化やp62の細胞内蓄積を認め、ER patchとは異なる構造をとる多層膜封入体が出現していることも発見し、UPSやオートファジーなどの細胞内分解系が協調的に機能する可能性を示した。さらにGnRH刺激を受けて直後のLH/FSH産生細胞ではミトコンドリアの膨化が生じている所見も得た。 本研究計画の2年目以降は、研究計画を形態学的アプローチに絞り込み、上記の内分泌細胞で見られた所見と他の生体組織・細胞における所見との比較検討を継続した。その結果、心停止後1時間経過した肝臓の肝細胞においては、オートファジー関連性と考えられる空胞状構造物が出現するが、その後に選択される肝臓保存方法によっては、空胞状構造物は消失しミトコンドリアの膨化が顕著に出現する所見を得た。これらのミトコンドリアの膨化、オートファジーとの関連についてはGnRH刺激下のLH/FSH産生細胞と類似性を持っており、今後はこうした現象が生じる機能的意義とメカニズムについて検討を実施していく予定である。
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