研究課題/領域番号 |
15K18952
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
宮坂 恒太 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (20590300)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | メカニカルストレス / ダイレクトリプログラミング / 組織再生 / 脱細胞処理 / 転写 / 代謝 |
研究実績の概要 |
本申請研究の目的は、メカニカルストレス依存的な心筋へのダイレクトリプログラミングの分子機構を解明し、生体において心臓を再構築することである。 ダイレクトリプログラミングは最終分化した体細胞を、iPS細胞多能性幹細胞を経由せずに、直接目的組織の細胞へと分化させる実験手法である。近年の研究により、遺伝子導入によって繊維芽細胞から心筋細胞を直接誘導することが可能になったが、その効率は極めて低く、心筋分化の成熟度も低い。本申請研究では、心筋へのダイレクトリプログラミングに、伸展刺激などのメカニカルストレスが重要であると想定し、その分子機構を解明することを目的とする。初年度には伸展刺激によって誘導された心筋の状態を詳細に解析する。 初年度となる平成27年度は、単軸性の伸展刺激を培養細胞に負荷して、心筋分化を誘導する実験において、心筋特異的なタンパクに特異的な抗体を用いて、タンパクの定量を行った。これにより、心筋分化への程度をより詳細に理解できる。その結果、伸展刺激を負荷した細胞では非伸展細胞と比較して、心筋特異的タンパクの量が増加していることが明らかとなった。その量は、遺伝子導入によって心筋ダイレクトリプログラミングを誘導したときよりも多くなっていた。また、ミトコンドリアの染色によって、伸展細胞においては、エネルギー産生の中心であるミトコンドリアの数が増え、膜電位も大きくなっていることが明らかとなった。さらに、伸展細胞では、糖代謝に代わり脂質代謝に関わる遺伝子発現が上昇することが確認されているが、それぞれの中間代謝産物量も伸展刺激によって脂質代謝に傾いていることが分かった。興味深いことにこれらの反応は、MKL2というタンパクを欠失させた細胞では確認できなかった。これらの結果は、伸展刺激がMKL2を介して心筋分化を惹起して、適切な心筋へと成熟させるのに必要な要素であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成27年度には、伸展刺激により誘導された心筋細胞の状態の解析を行うことを計画していた。具体的には、①心筋の構造タンパクの発現量の変化、②分化に伴うミトコンドリアの変化や膜電位の状態、③糖代謝から脂質代謝への変換が起きているかの診断と代謝産物の測定である。これらに関して、遺伝子導入によりダイレクトリプログラミングを誘導した細胞と、伸展刺激を負荷して分化誘導をかけた細胞を比較することを計画した。また、これらの伸展刺激依存的な反応を担うタンパクとして想定しているMKL2の非存在下において、これらの分化が抑制されるか検証することも計画していた。 これらの課題に関しては当初の予定通り、平成27年度中に実験を遂行および考察を行うことができた。しかし、当初予定ていた、プロモーターアッセイやクロマチン免疫沈降によって、MKL2がメカニカルストレス依存的に心筋分化関連因子のプロモーターにリクルートされるか確認する、という実験に関しては、平成27年度内に遂行することができなかった。その理由としては、メカニカルストレス依存的に活性化する遺伝子のプロモーターを同定することができなかったことが挙げられる。伸展刺激によって複数の遺伝位の発現が変化するが、それらの遺伝子のプロモータをレポーター遺伝子につなげても、伸展刺激のみでレポーター遺伝子の発現を亢進させることができなかった。伸展刺激によって心筋分化にかかわる様々な遺伝子発現は変化するが、心筋分化の際には分化初期に数個の遺伝子発現が惹起されれば、その後の分化はある程度細胞自律的に進行することが分かっているが、その最初の遺伝子群にストレス応答性があると考えており、現在それらの遺伝子のプロモータを改めて解析中である。 しかし、全体としての研究計画はほぼ順調に推移していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に計画していた、プロモーターアッセイやクロマチン免疫沈降によって、MKL2がメカニカルストレス依存的に心筋分化関連因子のプロモーターにリクルートされるか確認する、という実験に関しては、現在解析中の新規遺伝子のプロモーターの解析を継続する。さらに、これまでは心筋分化や成熟マーカーと呼ばれる遺伝子の解析が多かったが、今後はそれらにこだわらず、ストレス応答性を有する(伸展刺激に対して10分以内に発現が上昇する)遺伝子のプロモーターも解析対象に加えることで、ストレス依存的な心筋分化誘導を惹起するメカノトランスダクションの分子機構を明らかにする。 初年度の解析において、脱細胞処理を施した心臓に細胞を播種して、再構築された組織に伸展刺激を負荷する実験を行ったが、これらの伸展方式は、単軸性であり、心筋本来の拍動パターンとは大きく異なっている。学会発表やセミナーなどで他の研究者と討論する際にも、この単軸性の伸展刺激に疑問を投げかけられることが多かった。申請者は分化効率の更なる向上を目指すには、この伸展方式を見直す必要があると考えている。具体的には、細胞を再播種するために心臓に挿入している注射針を通して、ポンプによる圧力の負荷と緩和を繰り返せば、細胞が再播種された心臓は風船が膨らんでしぼむように、単軸性の刺激と比較して、より生体に近い刺激を負荷できると考えている。最終年度である平成28年度にはこのような伸展刺激の負荷実験系を新たに構築して、分化効率の向上を目指す。遺伝子発現レベルで変化が確認された後は、透過型・走査型電子顕微鏡などを用いて、心臓の構造も再構築されているか検証する。最終的には、伸展刺激による心筋ダイレクトリプログラミングの分子機構の解明と題して、論文等に研究成果を発表したい。
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