研究課題
本研究では神経系前駆細胞の動態を、(1)組織培養下、可能であれば子宮内(In utero)、(2)これまでにない高時間・空間分解能、(3)「すべての(In toto)」前駆細胞を同時に観察することで、「前駆細胞の真の動態」と「真の動態に基づく、前駆細胞集団による神経上皮構造の形成・維持機構」を解き明かすことを目的とする。以下に当該年度の実績を記す。(1)Nipkow-diskレーザー走査顕微鏡と水浸対物レンズの組合せで、脳原基の脳室-脳膜方向で100 um以上もの深さまで細胞形状の経時観察を可能とした。これは深部解像度では2光子励起顕微鏡には及ばないものの、Nipkow-diskとピエゾ対物レンズモーターの組合せによる画像取得レートで勝っており、細胞動態観察には極めて有利なシステムである。これによって神経系前駆細胞に存在する新規の構造体とその動態を発見し定量化した。(2)神経系前駆細胞の集団動態数理シミュレーションの結果、これまで全く類似するもののない新規の受動的な細胞動態メカニズムの存在が推定された。さらに3種の異なるIn vivo実験系でこの細胞動態メカニズムの存在を証明することが出来た。申請者らは(1),(2)の研究成果を現在学術誌に投稿準備中である。また、(1)の細胞イメージング技術を用いた共同研究の成果が学術誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
着実に成果を上げている。一部28年度に計画していた研究に関しても成果が出ており順調に進展していると考えられる。
(1)なるべく非侵襲に脳原基内部の細胞動態を可視化するための試みとして、臍帯で母体に繋がった状態のマウス胎仔脳を2光子励起顕微鏡経時観察に取り組む。現時点では数時間程度、脳原基深部まで画像データが得られている。子宮内に胎仔を保持した状態での経時観察に関しても挑戦する。(2)神経系前駆細胞の個々の物性、および細胞たちの集合して出来た組織、つまり神経上皮構造の物性を調べる。これによってなぜ個々の細胞の集まりから再現性を持つ多細胞形状が産み出されるか、その原理の一端が明らかになるからである。
もともと27年度に多くの予算を割り振っていたが、当初計画と異なり、物品購入費用が大幅に削減された。特に実験動物の購入分が少なかった。論文投稿・校正費用が27年度ではなく28年度になったため未使用額が生じた。
28年年度においては高価な実験動物の購入、論文投稿・校正費等で次年度使用額分を使用する予定である。
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Journal of cell biology
巻: 212 ページ: 561-575
10.1083/jcb.201509020.