研究課題
脊椎動物の中枢神経組織は、神経系前駆細胞集団からなる上皮構造組織(=神経上皮)より産み出される。本研究では神経系前駆細胞の動態を、なるべく生体内での状態を維持したまま、これまでにない高時間・空間分解能、「すべての」前駆細胞を同時に観察することで、前駆細胞の真の動態と真の動態に基づく、前駆細胞集団による神経上皮構造の形成・維持機構を解き明かすことを目的とした。前年度までに申請者らは、脳室面隣接域で誕生する娘細胞に特異的な動態が、神経上皮構造特有の物性と、そこに存在する力を利用していることを明らかにしていた。本年度はレーザー焼却の手法を用いることで、娘細胞に掛かっている力、すなわち周囲の神経上皮構造からもたらされる力の存在を、定性的にではあるが実験的に証明することができた。申請者らは更に、娘細胞の細胞体が脳室面近傍域から速やかに立ち去り、他の前駆細胞の細胞分裂のためにスペースを確保することが重要であることを、前述の全細胞経時観察の結果から仮説として導いた。これを実験的に証明することは困難なため、前駆細胞の集団動態シミュレーションを用いた。娘細胞の立ち去りに関するパラメーターを変化させてシミュレーションを行った結果、娘細胞の立ち去りが無いと脳室面近傍域が細胞体の集中で「渋滞」を引き起こし、ひいては神経上皮の構造が破綻する事が示された。これらの結果は、前駆細胞たち自身によって形成された神経上皮構造が、その構造に起因する力により細胞体の運動方向を規則的に制御し、神経上皮構造の経時的な維持を可能にしていることを示している。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: 39902
10.1038/srep39902
Frontiers in Cell and Developmental Biology
巻: 4 ページ: 139
10.3389/fcell.2016.00139