本研究計画では、急速凍結・凍結割断レプリカ標識法を用いて、生体膜を構成するホスファチジルセリン(PS)が、どのオルガネラの、どちらの膜葉に、どのように存在するのか(クラスター形成の有無や量)、すなわち、ありのままのPS局在を明らかにすること、さらに、その局在にどのような生理的な意義があるのかを追究することを目的としている。平成28年度は哺乳類細胞におけるPSの分布解析、PSを非対称性分布させるメカニズムの解明、非対称性分布の生理的な意義を明らかにすることを目標とした。 前年度に確立したPS可視化法を用いてマウス胎児由来線維芽細胞(MEF細胞)におけるPSの分布を解析した。従来報告されていた通りMEF細胞の細胞膜<細胞質側膜葉>、小胞体/外核膜<内腔側膜葉>にPSが豊富であった一方で、興味深いことにそれぞれに向き合う膜葉、すなわち細胞膜<細胞外側(表面側)膜葉>、小胞体/外核膜<細胞質側膜葉>にもPSが存在していることがわかった。PSを非対称性分布させるメカニズムを明らかにするために遺伝子操作の容易な出芽酵母を用いて、PSを細胞質側膜葉に移行させる酵素(フリッパーゼ)を欠損させた細胞を作製した。それぞれ単一なフリッパーゼの欠損だけでなく、複数のフリッパーゼ欠損細胞も同様に作製した。フリッパーゼの一つneo1については欠損株が致死的となるため、温度感受性変異株を用いて解析を行っている。今後これらの細胞におけるPSの分布を詳細に解析し、各フリッパーゼがPS非対称性分布にどのように寄与しているのかを調べるとともに、PSの非対称性分布がもつ意味を追求する。
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