研究課題
内耳において聴覚を司る蝸牛にはコルチ器と呼ばれる感覚装置があり、外有毛細胞、内有毛細胞、支持細胞より構成される。有毛細胞頂面には1本の動毛とV字型もしくは弧状に配列した不動毛が構築されており、平面内細胞極性(planar cell polarity; PCP)を形成している。階段状に配列した不動毛が一定方向に倒れることにより聴覚が受容されることから、有毛細胞のPCPは聴覚機能の成立に重要であると考えられている。以前私たちは、セリン・スレオニンキナーゼICKが繊毛内蛋白質輸送を制御することを明らかにした。今回私たちはICKに着目して、繊毛蛋白のPCP形成への関与、PCP障害が聴覚機能に及ぼす影響を調べた。胎生期においてICK欠損マウスでは蝸牛管の長さが短縮し、外有毛細胞の列の数が増加していた。また、ICK 欠損マウスでは動毛の位置異常や不動毛の配列異常が見られ、動毛と不動毛の位置が有意に解離していた。コントロールマウスでは繊毛の軸糸と基部に繊毛内輸送を担う蛋白質IFT88が局在していたのに対し、ICK 欠損マウスでは繊毛の先端と基部に局在し軸糸への局在は減少していた。さらにICK欠損マウスでは、支持細胞の繊毛が有意に伸長していた。内耳特異的ICK欠損マウスを用いて聴覚機能を評価したところ、低音域に難聴を認め、頂回転から中回転にかけて基底小体の位置異常および不動毛の配列異常が見られた。蝸牛の周波数特性よりPCP障害の部位と聴覚の障害される周波数が一致していた。以上より、ICKは蝸牛有毛細胞の動毛や支持細胞の繊毛において蛋白質輸送を制御し、有毛細胞のPCP形成や支持細胞の繊毛形成に関与することが明らかとなった。さらに PCP障害が聴覚障害の一次的な原因となり得ることが示唆された。今後、内耳有毛細胞のPCP形成における詳細な分子機構が解明されることが期待される。
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http://www.protein.osaka-u.ac.jp/furukawa_lab/