研究課題/領域番号 |
15K18958
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
大江 総一 関西医科大学, 医学部, 助教 (70599331)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脆弱X症候群 / CPEB1 / 翻訳制御 / RNA安定性制御 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、FMR1とCPEB1の相互翻訳抑制機構の解明を通して脆弱X症候群の病態生理の解明と治療法確立への基礎研究の遂行を目標としている。平成28年度は平成27年度にひきつづき、①FMR1・CEPB1の相互翻訳制御機構の解明、②脆弱X症候群モデルマウスにおいて、CPEB1発現抑制により発現変化する標的遺伝子の網羅的探索と治療標的の同定、を予定していた。計画①に関しては、新たに、FMR1 mRNAにおけるCPEB1認識領域を同定し、培養海馬神経細胞のRNA顆粒および、熱ストレス処理時HeLa細胞において形成されるストレス顆粒でCPEB1とFMR1 mRNAが共局在することを明らかにした。平成27年度に神経芽細胞種株化細胞Nuero2aを用いて、siRNAによるコントロールノックダウン(KD)、CPEB1 KD、FMR1 KD、CPEB1/FMR1 KDの細胞群間でマイクロアレイ解析を行ったが、平成28年度ではその結果をもとにGene Ontology(GO)解析を行った結果、脆弱X症候群をミミックするFMR1ノックダウン細胞では、CPEB1がミトコンドリア関連遺伝子群を抑制することが示唆された。それらの遺伝子群から候補遺伝子を選出し定量RT-PCRにより検定行った結果、マイクロアレイ解析で示された発現変化を確かに再現していた。計画②に関しては本研究計画に適したモデルマウスがないことが明らかとなり、現在、遺伝子欠損ではない脆弱X症候群モデルマウスの作製に向けて研究を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の実施状況について、研究計画①のCPEB1とFMR1の発現制御機構の解明についてはCPEB1がRNA安定性および翻訳を制御する事でFMR1の発現をコントロールするという新たなモデルを提唱し予定通り遂行している。研究計画②ではFMR1ノックアウトマウスを用いた解析を予定していたが、CPEB1が発現を抑制している可能性から、すでに遺伝子欠損されている動物を用いるのが適切ではないと考えた。さらに、脆弱X症候群のモデルマウスとされているFMR1 5’UTRにおけるCGGリピートのノックインマウスの導入を検討したが、近年の報告から脆弱X症候群のモデルとしては適さない可能性がある事が示唆されたため、現在、遺伝子欠損ではない脆弱X症候群モデルマウスの作製を検討している。これらの理由により、当初の計画に比べて現在の進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた研究結果から「CPEB1を上流としたFMR1の発現制御機構」と「脆弱X症候群でのCPEB1によるミトコンドリア機能の抑制」という新たな制御機構が示唆されたため、さらに詳細な解析を行い正確なモデルを構築する。またFMR1遺伝子欠損マウスにかわる脆弱X症候群モデルマウスの作製を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画では当初、FMR1とCPEB1の相互作用をin vivoで解析するために脆弱X症候群のモデルマウスであるFMR1ノックアウトマウスの導入を予定していたが、これまでの研究結果からRNA安定性や翻訳抑制を介したCPEB1によるFMR1の発現抑制機構の存在が示唆され、すでに遺伝子欠損されているノックアウトマウスを用いることが適切ではないと判断した。そのため、ノックアウトマウスの導入に予定していた動物購入費、飼育管理費等が使用されず次年度使用額が発生している。
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次年度使用額の使用計画 |
遺伝子欠損ではない脆弱X症候群のモデルマウスとしては、現在FMR1 5’UTRにおけるCGGリピートのノックインマウスが存在する。しかし、近年の研究報告では、このマウスは脆弱X随伴振戦/失調症候群 (FXTAS)や早期卵巣不全(POF)といった脆弱X症候群関連疾患のモデルとして用いられている。その理由としては、ノックインされているCGGリピート数が少ないため(50~200リピート)FMR1がある程度発現している事が考えられる。そのため、脆弱X症候群患者に見られるようなCGGリピート数の多い(1000~2000リピート)マウスの作製を検討している。その際の、CRISPR/Cas9ベクターの構築、ノックインES細胞株の樹立、マウスへの移植、飼育管理等の費用として次年度使用額を用いる予定である。
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