毛様体筋は眼の遠近調節に関わる平滑筋で、素早い収縮応答と、それに引き続く持続的な収縮というユニークな収縮特性を持っている。これまでの研究により毛様体筋のカルバコール刺激に依る収縮には他の平滑筋と同じように細胞内のCa2+濃度の上昇が重要な役割を果たしていることが知られているが、その下流のシグナル伝達経路についてはいまだ不明な点が多い。本研究ではウシ毛様体筋切片を試料とし、他の平滑筋と同様なミオシン軽鎖LC20のリン酸化に依存した収縮弛緩の調節が行われているのかPhos-tag電気泳動法を用いたリン酸化解析を行い検討した。予想に反してLC20のリン酸化状態がカルバコール刺激の有無、すなわち収縮・弛緩に依らず一定のレベルに保たれていることが判明した。この結果は毛様体筋収縮・弛緩の調節にミオシンのリン酸化・脱リン酸化を介さない別のCa2+依存性機序が関わっている可能性を示唆している。この未知のCa2+依存性機序の関与を明らかにするためβ-escinにより細胞膜に透過処理を施した毛様体筋でCa2+依存性収縮を観察したところ、Ca2+依存的にLC20リン酸化の増加が見られた。一方、イオノマイシンによりCa2+イオンに対する選択的な透過処理を施した毛様体筋ではCa2+依存的なミオシンのリン酸化の増加が見られなかったことから、β-escin処理毛様体筋ではミオシンのリン酸化を安定化させる因子が失われた可能性が示唆された。透過処理筋をホスファターゼ阻害剤で処理したところ、Ca2+非依存的なLC20リン酸化の増加が見られたが張力の増加はわずかであった。この状態でCa2+を添加したところ張力のさらなる増加が認められた。以上の結果から、毛様体筋収縮においてCa2+はLC20のリン酸化を亢進するだけではなく、別の調節因子に作用する重要な役割があることが示された。
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