研究課題/領域番号 |
15K18965
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
山口 智和 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30749940)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ユビキチン転移酵素 / 心機能 / 分子生物学 |
研究実績の概要 |
CCR4-NOT複合体は、種間で高度に保存されたタンパク質複合体として多数の細胞機能に寄与しているが、関連タンパク質であるCNOT4の生理的役割は分かっていない。本研究はユビキチン転移酵素であるCNOT4の生理的役割を明らかにするために、平成27年度は下記の項目について検討を行った。 1) Cnot4遺伝子欠損マウスの心機能解析: 6、12、24ヶ月齢のCnot4ヘテロ遺伝子欠損マウスについて心エコーによるin vivo解析を行った結果、加齢に伴う心収縮力の低下を認めた。また、大動脈弓の結紮により心不全を誘導した(TAC)マウスモデルにおいて、Cnot4へテロ遺伝子欠損マウスは野生型に比べ心臓重量の増加ならびに心収縮力の低下を認めた。したがって、CNOT4の主要な機能と考えられているユビキチン転移反応が心機能の恒常性維持に寄与していることが示唆された。 2)幹細胞及び体細胞におけるCNOT4欠損の表現型解析: CNOT4遺伝子の完全欠損マウスはおよそ受精後10日程で致死になることを見出した。CRISPR/Cas9システムを用いてCNOT4遺伝子を欠損するES細胞を作製し観察を行ったが、顕著な表現型は認められなかった。一方で、siRNAを用いて体細胞におけるCNOT4の発現抑制を行ったところ、HEK293T細胞において増殖の低下、及び細胞面積の減少が観察された。すなわち、初期発生過程におけるCNOT4欠損マウスの致死については、分化後の細胞増殖異常によるものだと考えている。 3)CNOT4が標的とするユビキチン化タンパク質の探索:CNOT4にFLAGタグを付加した発現ベクターを作出し、強制発現後のHEK293T細胞についてFLAG抗体を用いた免疫沈降及び共沈タンパク質の質量分析を行い、CNOT4に結合するタンパク質の網羅的な探索を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CNOT4遺伝子を完全に欠損するマウスは受精後およそ10.5日に致死になっていることを確認した。このことから、CNOT4が発生早期で、器官形成や細胞増殖に寄与している可能性が考えられた。そこで発生早期におけるCNOT4の働きについて明らかにするために、ES細胞へのCNOT4遺伝子ノックアウト導入を行った。その結果ES細胞における細胞増殖効率についてはCNOT4が存在していなくても正常に行われていることを確認した。一方で幹細胞分化誘導後の細胞の増殖効率や表現型などについては今後解析する必要があると考えている。 CNOT4の心機能への関与を解析するために、Cnot4遺伝子ヘテロ欠損マウスにおける心機能の解析を行った。その結果、野生型に比べて、Cnot4遺伝子ヘテロ欠損マウスは、加齢に伴う顕著な心収縮力の低下を確認できた。また、大動脈弓の結紮により心不全を誘導したマウスモデルにおいても、Cnot4へテロ遺伝子欠損マウスは野生型マウスに比べ心臓機能の低下が進んでいることが観察できた。一方で、心臓の悪化に伴うCNOT4タンパクの発現、ポリユビキチンの細胞内蓄積状況、CNOT4基質タンパク質の残存タンパク質量などが今後明らかにしたい課題と考えている。 CNOT4にFLAG配列を付加した融合タンパク質発現プラスミドの作出、HEK293T細胞への導入、FLAG抗体を用いた免疫沈降法、及び共沈タンパク質の質量分析によりCNOT4に優先的に会合するタンパク質の候補を明らかにした。一方で、これらの候補タンパク質の中で、実際にCNOT4によるユビキチン化がおきているのか今後明らかにする必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続きCNOT4が標的とするユビキチン化タンパク質の解析を行う。CNOT4との共沈降により得られたタンパク質について、CNOT4存在の有無によりユビキチン修飾が変化しているか、ユビキチン化修飾と連動した標的タンパク質の活性、局在、および発現量が変化するかを、CNOT4 siRNAを導入した培養細胞およびCNOT4へテロ欠損マウスにおける組織を用いて解析を行う。 CNOT4ヘテロ遺伝子欠損マウスにおける表現型の解析により、CNOT4が心臓機能の恒常性維持に作用していることを示唆する結果を得た。CNOT4の心臓におけるさらに詳細な生理機能を明らかにするために筋肉組織特異的なCNOT4遺伝子欠損マウスの作製を行っている。また、CNOT4がユビキチン化を行う上で必須となるRINGフィンガードメインを特異的に欠損させたノックインマウスを作製しており、ユビキチン活性独立なCNOT4の役割、意義について見当を行う予定である。 同時にin vitro培養系で、RINGフィンガードメイン上に変異を導入した変異型CNOT4発現ベクターを作出し、培養細胞への導入による変異型CNOT4タンパク質の過剰発現により、基質タンパク質のユビキチン化修飾状況、及び細胞内残存状況に変化がもたらされているのか解析を行う。以上の解析により、細胞内におけるCNOT4の基質タンパク質の量的変化が観察された場合、siRNAを用いた翻訳阻害、もしくは標的タンパク質をコードする発現ベクターを構築して過剰発現を誘導することで、細胞生理機能にどのような変化がもたらされるのかを明らかにする。 これらの解析を通じて、心機能の恒常性維持において、CNOT4が制御するユビキチン修飾系の分子動態がどのように連動しているのを明らかにしていく。
|